地域観光事業のススメ方

地域観光に最も必要なこと

2017/03/01 :地域観光事業のススメ方

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─これまでの発想を覆す観光イノベーション─

1.新たな旅館再生

%e4%ba%95%e9%96%80%e3%81%95%e3%82%93信州・湯田中温泉に6室の小さな宿が誕生した。「加命廼湯(かめのゆ)」は、現オーナーが細々と常連客を取る宿として運営してきたが、高齢により休業。しかし、これ以上「宿の灯を消してはならない」地元老舗旅館「よろづや」の小野誠社長が旅館再生向けて動いた結果、よろづや社員として5年間働いてきた高山京平さんが運営者として手を挙げ、改装を経て再生にこぎつけた。弱冠31歳の高山さんはこれを機に結婚。新しい人生の第一歩を踏み出した。

改装資金は、地方銀行が中心となり設立したALL信州活性化ファンドが出資し、湯田中温泉を再生するために創られたまちづくり会社「wakuwakuやまのうち」が捻出した。そして、特筆すべき点は旅館建物内にはオーナー一家が継続して住み、オーナーとの長期賃借契約で運営している点である。おそらく1万軒以上に上るであろう全国の休業旅館の多くは、自宅として使われている。そのため売買もできずにいる。しかし、そうした環境を逆手に取り、旅館を再生する手法を加命廼湯は示してくれた。

調理場はオーナー一家が台所として使うために、旅館では使えない。そのため加命廼湯は1泊朝食式だ。朝食はよろづやで仕込みを終えたものを運び、夕食は出さないのだが、結果としてこれが幸いしたと思っている。

温泉街にはwakuwakuやまのうちが投資したビアバーやカフェがある。宿泊客は夕食をまちなかのそうした食堂に食べに行く。できるなら、ただ客を外に出すだけではなく、旅館のキャッシュ確保のためにも、海外リゾート地のような夕食ミールクーポン(あらかじめ旅行者が購入する食事券)を開発できればなおよいと思う。

実は、こうして夕食なしで事業を設計しておけば、旅館の収益性は確実に高まるのだ。 続きを表示…

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和食を求める外国人

2017/02/01 :地域観光事業のススメ方

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─ペスクタリアンで地方創生─

1.和食を食べたい外国人

全国を巡っていて感じること。それは都市や有名観光地において、外国人観光客が目立って増えたと実感することだ。今や、東京や京都はもとより、箱根・富士、高野山、広島あたりでは日本語より英語を話す機会のほうが多いのではないかと思うくらいだ。

一方、それ以外の地方の温泉地や農漁村では、今まで通りの日本人のシニア観光客が目立つ。しかし、徐々にそうしたシニア客のリピーターの足が遠のき、集客に苦慮するようになり、1軒、2軒と宿を畳もうかどうしようかと悩む経営者が後を絶たなくなってきているのが現状ではないだろうか。

有名観光地で外国人も増えつつあるエリアは国や自治体からの支援も増え、生産性も向上する一方で、ブランドのない農漁村エリアや山間部の温泉などは苦戦し、国内観光地での二極分化が進んでいるように感じる。

こうした市場環境のなかで、妙な「矛盾」を感じることがある。外国人観光客は本当なら、こうした有名観光地の宿ではなく、農漁村エリアや山間部の温泉宿に泊まりたいのではないのではないかということ。その理由としては、宿で食べたいのが日本人観光客が食べている「豪華な会席料理」ではなく、日本の郷土性のある料理ではないかと思うからだ。

そのせいか、外国人は「旅館に泊まりたい」という希望は多いものの、実際に泊まっている数はそれほどでもなく、ホテルの利用が多い。さらに、1泊2食で予約したものの、豪勢な夕食を放棄して町に食べに出かけるという方も散見される。

とはいうものの、町に出てお目当ての店があるかというとそうでもない。なぜなら、望んでいる「和食」を出す店がなかなかないためだ。「和食」とは、天ぷらとかしゃぶしゃぶではなく、根菜や魚介を中心とした昔ながらの「和食」だと思う。結果として、わかりやすい寿司店ばかりに外国人客は流れていないだろうか。

残念ながら、日本人の泊まる宿はパンフレット映えのするエビ・カニ・牛肉といった「赤もの」づくしの料理になって久しい。有名観光地だけならまだしも、山の中の温泉でさえだ。とりわけ、昨今の高齢者は牛肉が大好きで、多くの旅館ではシニア客向けに牛肉を定番としている。

しかし、こうした料理は外国人が求める料理ではないのだと思う。 続きを表示…

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2017年旅のトレンド予測

2017/01/04 :地域観光事業のススメ方

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─「どこへ行く」から「そこへ行く」へ─

毎年1月号の本コラムではその年の旅に関するトレンド予測を書いている。昨年は「ゲストハウスフィーバー」「農家民泊」「伊勢志摩」「島」「インバウンド踊り場」がくると勝手に予想していた。まずまず無難かつ安易な予想だったかもしれない。米国大統領選挙のある年は何かあると思っていたが、意外に何事もなく済んだ方だと思う。ただし、天変地異ばかりは予測がつかず、熊本にはいち早く立ち直ってもらいたいと心から願っている。

ということで、懲りずに2017年・旅のヒット予測をしてみたい。そのラインナップは、これまでの「どこへ行く?」という地域ありきの旅から、「そこへ行く。それはどこ?」といった目的ありきの旅への変化を予期するものであり、これまでの地域プロモーションのあり方を大きく覆すものばかりだ。

第5位 ARアプリ

昨年はAR(拡張現実)技術を活用した「ポケモンGO」が流行した。ARとはスマホのカメラを利用し、現実の世界に仮想の世界をごちゃ混ぜにして現実を拡張して見せる技術。今年はこのARが、旅の分野でより活用される年になるだろう。最も原始的な使い方は、地域ガイド。例えば、史跡に立ち、スマホカメラを覗くと戦国武将が飛び出し、文字と音声でその時代を再現する。すでにこうしたアプリは国内の観光先進地で開発されつつある。しかし、残念ながら不特定多数の旅行者を対象として、ガイドブックの代わりをさせるような使い方ではアプリのダウンロード数は伸びないだろう。その手間が面倒なだけで、看板を見たほうが早いためだ。

そうではなく、ターゲットを決めることだ。もし私が企画するとしたら、「ひとり旅」アプリを作る。ひとり旅はご存じのとおり、年々増えている。そのひとり旅の友はスマホであり、スマホに頼る回数も2人旅のときに比べて格段に増える。そのため、ひとり旅デビューの人向けのコースを作り、そのコースガイドをするARアプリを開発する。カメラのなかに出てくるのは、自分の親しい人でもアニメの主人公でもいい。カメラのなかでは登録した画像の相手と旅をしているように見えれば、ひとり旅もより楽しくなる。新潟ひとり旅の旅先はアプリがガイドする。「どこへ行く?」など考えなくてもいい。アプリさえあれば、常に誰かと新潟の旅を楽しめるのだ。今年は、内容はともかく、あちこちでARアプリが開発される年になりそうだ。 続きを表示…

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一人旅のすすめ

2016/12/01 :地域観光事業のススメ方

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─増える一人旅、宿も歓迎する理由─

1.一人旅下見ツアー

新聞で「ひとり旅を応援」という小さな広告を見かけた。一人旅のツアーの広告かと思えば、少し違う。「羽田の集合場所めぐり」というこの日帰りツアー。実は、「一人旅ツアーに参加しようと思うが、旅をしていなかったので最近の空港や駅の様子もわからないし、集合場所まで一人でたどりつけるか心配」という方々に向けた「一人旅ツアーの集合場所下見ツアー」なのだ。

新聞の記事などによると、ツアーはほぼ満席で、参加者は60~70代のシニアが中心のようだ。一人旅の行き先は国内外様々なので、羽田空港の国内線・国際線出発ロビーや東京駅を下見してまわる。

下見ツアーがあるということは、もちろん、その本番である一人旅ツアーもあり、近年どんどん増加しているという。なかには、夫婦で参加するのだが寝室は一人ずつがよいと、一人旅ツアーに参加する夫婦が過去におり、現在では「完全なるお一人様限定」ツアーのほかに、「夫婦で参加し寝室はシングル」ツアーまであるというから、まさに「お一人様」全盛期に入りかけているといえるだろう。 続きを表示…

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消費の芽を摘む「批判」社会

2016/11/01 :地域観光事業のススメ方

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─ネット社会主義の闇を恐れず情報発信しよう─

1.ネット社会の暴力

先日、資生堂の化粧品ブランド「インテグレート」のCMが、「セクハラ」ではないかとツイッター上で騒がれ、放送中止に追い込まれるニュースがあった。社会への影響も大きく、とりわけ女性の働き方の革新を先導する企業だからこそ、という背景もあるのかもしれないが、一般人(あえていえば一般男性)からすると「これのどこがセクハラ?」という印象がぬぐえなかった。

そのCMは、パンをかじりながら疲れた様子でパソコンに向かっている若手女性クリエイターに対して、男性上司が「がんばってるね!でも、がんばってる感が顔に出ているうちはプロじゃない」と発言。カチンときた主人公、「ある経験」で変身し、その美しさに思わず上司もふりかえってしまうというもの。

「ある経験」とは、25歳の誕生日会として、別バージョンになっている。「今日からアンタも女の子じゃない、なめちゃいけない、リアルワールド」と同級生にからかわれた後、「かわいいをアップデートできる女になる」という友人の発言に全員で共感。その後「燃えてきた」とインテグレートで化粧を始める・・・といったストーリーだ。

たしかに「男性目線」で作られたストーリーかもしれない。男性上司の余計なひと言はカチンときてもらうために仕組まれたものだ。「化粧しないと女ではないのか」と思われるほどメッセージ性は強い。その点は認めるとしても、あくまでこれは「女性用化粧品の広告」だ。そこまで真に受けられると、関西流のボケやツッコミでも怒られてしまい、冗談もいえない社会になりそうな気がする。

むしろ、私が恐れているのは年々過激になり、社会に浸透しつつある「ネット社会主義」だ。芸能人や有名人の世界での発言などがネットで撲殺されると、リアルの世界でも立場を失ってしまう。それが一般の現実世界でも展開されつつあると恐れているのだ。

少なくとも、ネット上の宿泊予約サイトのクチコミ欄では、クレーマーとのやり取りをよくみかける。「呼んでも誰も出てこない」「出てきた料理はひどい代物」「二度と行くか」。それにお詫びコメントを入れなくてはならない旅館の方の精神は(心のなかでは塩を撒いたとしても)たった一言で蝕まれ、モチベーションは確実に下がる。こういうと利用者には失礼だが、公共の場での匿名の発言は「暴力」以外の何ものでもない。こうした暴力が、ネットでいとも簡単に拡散し、一般消費者が真に受けてしまうと「何もいわれていない宿が良い宿」という「リスクヘッジ」が選択の基準となってしまい、サービス提供者は誰もリスクを負わない(尖(とが)らず、出る杭にならず)凡庸で競争力のない、つまらない観光地や社会ができあがるだろう。つまり、このままでは「社会経験の少ない弱者」がネットという武器を乱用し、社会や地域を破滅に追い込んでいくのではないかと恐れている。 続きを表示…

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観光立国に必要な消費者教育

2016/10/03 :地域観光事業のススメ方

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─ブラック企業はなぜできる?─

1.日本の大学生

今夏、観光を学ぶ大学生31人をインターンシップに送り出した。インターンシップとは、社会に出る前の就業体験のことで、文部科学省が昨今打ち出している学生の「生きる力」、経済産業省の言葉では「社会人基礎力」の養成を目的としている。数日や1週間程度の「職場見学」程度のものもあるが、現場組織でスタッフとして認められるには最低でも3週間は必要で、全員3週間以上のインターンシップを地域(島根県隠岐、和歌山県龍神温泉、カンボジア等)で行った。インターンシップ先に共通するのは「観光資源は豊かだけれど、資源として認められてないものが多く、周囲にはコンビニ等もない自然の中の宿泊施設」で、最後に地域の観光振興に対する提案を行った。

私が学生を現場に送り出す目的は、「消費者(旅行者)としての経験しかない学生に、地域の生産者(サービス提供者)としての立場を理解してもらうため」その一点である。特に、経験するのは夏の最繁忙期であり、多くのお客様が来訪する。来る日も来る日も多忙に明け暮れ、参加学生からも「今日はお客様に来ないで欲しいと思った」という本音も出た。その経験が欲しいのである。

なぜ、観光産業が「3K」と呼ばれ、給与の割に仕事がきついといわれたり、あるいは、もっと広く、世の中でなぜ「ブラック企業」が生まれたりするのか。その点を考えて欲しいのだ。

それは「サービス価値に対して価格が低い」ためだ。言い換えれば「消費者が強い」のだ。消費者主導の観光を設計している限り、実は地域は発展しない。観光にも限界がくる。生産者主導で設計し、消費者が追認する地域づくりこそが今求められているのだが、多くの地域がやっているのは「消費者への迎合」だ。こうした傾向を改め、日本を観光で豊かにするためのイノベーションを起こしたい。それこそが観光を学ぶ学生の使命であり、観光学部・学科を設置する大学の役割だと思っている。

しかし、インターンシップの最後で行われる成果発表の過半数は残念な発表に終わる。その多くが「コンビニがあれば、お客様満足度が高まる」「二次交通が不便なので、バスを増便すべき」「オフを解消するために若者が集まるイベントを開催したい」といったもので、「そのお金どこから出てくるの?」「収益は考えてみた?」というものばかりだからだ。あくまでも都市の消費者発想でしかなく、地域資源の価値や地域の事業者・生産者の立場すら想像できていない。インターンシップ先の皆様には申し訳ない限りなのだが、これから教室で議論すべきことが山ほどできる。

しかし、インターンシップでの現場経験があってこそ、実体験と本来提案すべきイノベーティブな発想が結びついていくので、もう少し時間をいただければ幸いである。 続きを表示…

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観光と福祉のコラボレーションへの挑戦

2016/09/01 :地域観光事業のススメ方

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─障害者と共生する職場や社会に─

1.身近な障害者

16年7月、相模原市で凄惨極まりない殺傷事件が発生した。あれから1カ月しか経っていないのだが、メディアは事件を追わず、記憶の彼方へと追いやろうとしていないだろうか。なにか、ふつうの事件とは違う。それは被害者が障害者だったからに他ならない。

4月からは「障害者差別解消法」が施行され、職場では障害の有無で差をつけることが禁止され、合理的配慮を提供することが義務付けられた。「障害」というと、身体障害や知的障害が思い浮かぶと思うが、比較的忘れられているのが「発達障害」だ。例えば、広汎性発達障害のひとつであるASD(自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群)がある。

多くの有名人やアーティストも発達障害を公表しているが、知的障害を伴わないどころか、ひとつのこと(学習も含む)に執着することから、比較的知的レベルの高いケースも多い。その症状としては、周囲とのコミュニケーションを取るのが不得手で、マイペースを貫き、同じ行動を繰り返したりする。

ここまでであれば、周囲にいそうという声もあれば、自分もそうではないか、と感じる方も多いであろう。それだけ多いということであり、実際、日本において発達障害は年々増加している。その原因は諸説あり明らかではない。社会において容易に差別をしたり、後ろ指を指したりすることは禁止されなくてはいけないのだが、まずは、意外と身近な存在であることを認識しなくてはいけない。 続きを表示…

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世代を超えて商圏を広げよう

2016/08/01 :地域観光事業のススメ方

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─音楽業界にみるマーケティング─

1.翼はいらない

6月18日、「AKB48総選挙」が行われた。諸兄にとってふだんは興味ないことかもしれないが、今年は新潟で開催されたこともあり、注目された方も多いのではないだろうか。

また、総選挙に先立ち、総選挙投票券付きCDとしても発売されたシングル「翼はいらない」を聴いてみて欲しい。プロデューサーの秋元康が、おそらくこの曲に仕掛けたであろう企てが興味深い。

実は、楽曲販売を収益源とするAKB48の人気も一時ほどの勢いがなくなってきている。ネット上に無料の音源があふれ、楽曲販売にテコ入れが求められている今、この曲には世代の幅を広げようとしたマーケティング戦術が仕掛けられていたと思う。なぜかといえば、昭和生まれの私の耳に妙に残ることに気づいたからだ。もしかしたら認知科学を応用し、50~60年代生まれの耳に残るような音階・メロディーで作曲されていたかもしれない。

「翼はいらない」という曲名もまさに「昭和」だ。70年代に人気を博したフォークグループ「赤い鳥」が歌い、71年にリリースされた「翼をください」を意識して作ったのではないかと思った。おそらく、その通りではないだろうか。

高度成長期の真っただ中、「今、私の願いごとがかなうならば、翼が欲しい」と歌った赤い鳥に対して、言葉を返すように「翼はいらない。夢があればいい。大地を踏みしめながらゆっくり歩こう」とAKB48。 続きを表示…

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