マーケットレポート

2017年度上期のマーケット欧米政治に振り回されやすい展開が続く

2017/04/03 :マーケットレポート

 

第一生命経済研究所首席エコノミスト 嶌峰義清(しまみね・よしきよ)氏

※ 本稿は、2017年3月1日現在で執筆されたものです。

1.下期市場の振り返り

2016年度下半期のマーケットは、イギリスの国民投票に揺れた上期に続いて海外の政治動向に翻弄される展開となった。注目された米国の大統領選挙では、共和党候補にトランプ氏が名乗りを上げたことで混沌とし、市場は身動きが取れなくなった。結局、大統領選挙ではトランプ氏が当選、第45代米国大統領の座に着いた。予想外の結果に、イギリス国民投票時のような大きなショックが市場を襲うとみられたが、混乱は半日で収束。その後は16年末にかけて株高・金利上昇・ドル高(円安)が急伸する“トランプ相場”となった。

その背景には、以下の点が挙げられる。第一に、同時に行われた議会選挙の結果、上下院とも共和党が制したことで、トランプ大統領の国内向け経済政策が実現しやすくなったことが挙げられる。トランプ氏は大型減税、金融規制緩和、公共投資の拡大といった景気を強く押し上げる政策を公約としていた。折しも、米国経済は再加速に転じはじめており、米景気に対する楽観論が強まった。第二に、イギリス国民投票時の経験が生きたことが挙げられる。当時、市場は予想外の結果とそれによるイギリス経済への悪影響への懸念から、一時、混乱状態に陥った。しかし、今後の交渉次第ではイギリス経済への影響は限定的になる余地があること、世界経済への直接的な悪影響は限定的なこと、離脱までに2年はかかる一方、足元の世界経済は底堅いこと、などから、およそ2週間後には欧米株価は国民投票前の水準を回復するに至った。このように「経済環境が悪くなければ、いずれマーケットは戻る」との経験が、トランプショックによって一時的に急落した株式市場へ早期にマネーが戻る結果に繋がったものと考えられる。

しかし、年が改まると楽観的なトランプ相場は影を潜めた。それはトランプ氏の政策の柱ともいえる保護主義や、世論を二分するような独善的といわれる言動が目立ってきたからである。市場では、選挙期間中にトランプ氏が主張してきた極端な保護主義や人種差別的ともいわれる政策は、リップサービスである部分が大きいのではと感じていたフシがある。しかし、トランプ氏の言動はそうした市場の期待とは真逆の方向へと向かっていった。メキシコに工場を進出させる計画を持った企業を個別に攻撃。公約としていたTPPからの離脱やメキシコとの国境に壁を建設することを早々に大統領令として決定したほか、選挙期間以上に大手メディアとの対立も深まった。こうした“変わらないトランプ”が市場の失望に繋がり、あるいは先行きの不透明感をあおる結果となっている。

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2016年度下期マーケット海外頼みに戻った日本市場

2016/10/03 :マーケットレポート

第一生命経済研究所首席エコノミスト 嶌峰 義清(しまみね・よしきよ) 氏

※ 本稿は、2016年9月6日現在で執筆されたものです。

1.上期市場の振り返り

2016年度上半期のマーケットは、米国経済が明るさを強める一方で、中国経済の停滞やイギリスのEU離脱騒動に代表される不透明な国際情勢など、景気にとって好材料と悪材料とが混在するなかで方向感に欠ける展開となった。

上半期のマーケットにとってもっとも大きなトピックスは、6月下旬に行われたEU離脱の是非を問うイギリスの国民投票だった。離脱支持票が反対票を上回るという予想外の結果に、グローバルマーケットはリーマン・ショック時を彷彿とさせるような混乱状態に陥る局面もみられた。しかし、当時のように金融市場が機能停止に陥るようなことはなく、市場の混乱も1週間ほどでおおむね沈静化した。EU域内経済への直接的な影響は限定的なうえ、イギリスがEUから離脱するまでには最低でも2年程度の時間を要すること、交渉次第ではイギリス経済への影響を少なくすることができること、などが市場の混乱を限定的なものにとどめたと考えられる。

一方で、米国経済が明るさを増したことで、世界的に景気に対する不安感は幾分後退した。日本やユーロ圏などの量的緩和政策をはじめとした世界的な金融緩和状態が続いたことによる低金利もあり、イギリスのEU離脱問題などで一時的な混乱はあったものの、世界的には株式市場は堅調に推移した。

日本では、米国金利の低下がドル安圧力を高め、円高が進んだ。さらに、消費税率引き上げ以降続いている景気の低迷もあって、株価は低調な推移となった。

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エアポケットからの脱却を図る2016年度上期のマーケット

2016/04/01 :マーケットレポート

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 嶌峰義清(しまみねよしきよ)氏

※ 本稿は、2016年3月1日現在で執筆されたものです。

1.年初来市場混乱の背景

2016年のマーケットは、年明けとともに劇的な混乱をみせた。日経平均株価は大発会から6営業日連続安と、年初からの連続下落としては東京証券取引所開所来の記録を更新した。世界的にも株安・金利低下・低金利通貨高(円高)という、投資家がリスク回避の動きに出た場合の典型的なパターンを強めていった。

直接的な背景には、主に2つの要因が指摘されている。

1つ目は中国不安だ。中国経済の減速基調が続いているなかで、中国株と人民元の下落が強まった。昨年からの株安や、SDR(国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権でIMF加盟国に配分される準備通貨)に人民元が採用される際などに講じた場当たり的ともいえる対応が、かえって市場の混乱を大きくしたとみる向きが多い。景気不安と中国資産安とがあいまって、中国からの資金流出が加速しているのではないかとの懸念が、中国経済に対する不安感を煽る格好となった。

2つ目は原油安だ。2016年、イランへの経済制裁が解除されたことで、同国の西側諸国との貿易取引が解禁、原油増産が確実視された。中国経済の不振もあって原油の需要が伸び悩む一方で、原油生産量が拡大の一途を辿っていることから、原油価格は一段と下落した。これにより、中東を含めた産油国の収入が減少、原油を輸出して得た収入を各国の市場で運用しているオイルマネーが縮小するばかりでなく、収入減を補うために換金売りに出たことで、各国の株安圧力となった。さらに、原油安が株などの換金売りに繋がるとの見方を背景に、投機筋などが原油と株の空売りを積極的に行った結果、世界的な株価の下落がより大きなものとなった。

このように、中国問題と原油問題が絡み合うような格好で市場の動揺は拡がっていった。さらに、資産市場が動揺すると起こりがちな現象として、信用不安も台頭した。欧州の銀行に対する不安感の高まりや、新興国のなかでも経常赤字規模が大きい国に対する懸念の高まりだ。これらの問題は、市場の動揺が落ち着けば自然と解決する側面がある一方で、市場の動揺が大きくなれば現実化してしまうおそれもある(たとえば、株価が大幅に下落することで銀行の資産が悪化、経営困難に陥るなど)。

もっとも、これらの問題は市場混乱の直接的な引き金を引いたことは間違いないかもしれないが、本質的には世界経済に対する不安感が市場の動揺を誘っていると考えられる。米国では雇用の改善を背景に2015年12月にはリーマン・ショック後初めての利上げを行ったが、一方で製造部門では減速感が強まっている。利上げという金融市場にとってのネガティブな環境に入るなかで、景気の一部に陰りがみえていることで、マーケットはより所をなくすような“エアポケット”に陥った感がある。

2月になると、産油国の一部は、原油価格の下落を抑制するために、産油量をこれ以上拡大させない方針を示した。また、2月下旬に行われたG20(20か国財務相・中央銀行総裁会議)では、金融政策の効果に限界が迫るなかで、財政出動を含めた景気浮揚策の可能性に言及するなど、市場の不安を取り除く努力を迫られる格好となった。しかし、最終的には景気にさや寄せされるのがマーケットの動きであり、こうした対策が功を奏すかどうかも含めて、各国経済が回復傾向をみせるかどうかが問われることとなる。

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新興国の回復がカギ握る2015年度下期のマーケット

2015/10/02 :マーケットレポート

※ 本稿は、2015年9月1日現在で執筆されたものです。

1.中国不安が席巻した2015年度上期のマーケット

15年度上期のマーケットを振り返ると、予想外の混乱をみせたギリシャ問題は、最終的に、ギリシャ側が貸し手となるEUやIMFの財政改善政策を全面的に受け入れる形で決着した。しかし、政治が絡んだ問題は経済合理性から導き出される結論とは異なる方向へ向かうリスクが高いことをあらためて印象づけた。

一方で、中国株急落に起因した世界同時株安は、単に中国経済に対する不安感だけが問題だったわけではない。米国の利上げが間近に迫るなかで、景気の低迷が続く中国を筆頭とした新興国経済との景況感格差が一層拡大するとの懸念が根底にあったように考えられる。

中国株は、14年半ばから1年間で2.5倍に達するという暴騰をみせた。一方で実体経済の低迷は続き、今年6月にはついに下落に転じ、わずか1カ月の間に30%もの急落へと転じた。中国政府は、金融緩和、金融機関による株式の買い入れ推奨や、事実上の空売り禁止措置などの手を打ち、いったんは株安に歯止めがかかったようにもみられたが、8月半ば以降に再度急落し、これが世界同時株安へと繋がった。

中国株急落はバブル崩壊であるとの見方もあるが、過去のバブル、およびバブル崩壊とは特徴が異なる。まず、日本のバブル崩壊時などのように極端に割高になったわけではない。株価を一株あたり利益で割って求められるPER(株価収益率:一般的に15倍程度が妥当な水準とされる)は、日本のバブル時には80倍程度であったのに対し、上海総合株価指数のPERは今年6月のピーク時でも22倍に過ぎない。また、過去のバブル崩壊は揃って金融引き締め時、すなわち中央銀行が利上げを行っている最中に起きたのに対し、中国では11年来金融緩和が続いている。

このように考えると、中国株の急落は短期的な行き過ぎた上昇からの反動であり、典型的なバブル崩壊現象とはやや異なる。ちょうどこの春から中国では住宅価格が再び上昇に転じ始めている。金融緩和が続くなかで、余剰マネーが割高感の強まった株式市場から、割高感が薄らいだ不動産市場にシフトしている可能性もある。上海総合株価指数のPERは、3,000ポイント前後でPERが割高感のない15倍程度になることから、同水準あたりでは輸出主導による景気回復を待つことが可能となろう。 続きを表示…

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米国金利上昇下での世界のマーケット

2015/04/01 :マーケットレポート

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 嶌峰 義清(しまみねよしきよ) 氏

※ 本稿は、2015年3月11日現在で執筆されたものです。

1.不安定要因を乗り切る2014年度下期のマーケット

14年度下期のマーケットは、日本では消費増税第二段の延期、日銀の追加量的緩和政策など、株式市場にはプラス材料となる政策が相次いだ。しかし、グローバルには原油価格の大幅下落やギリシャの財政問題再燃など、不透明要因が相次いで市場の動きは不安定となった。

原油価格の下落は、需給悪化から原油価格に下落圧力傾向が続いていたにもかかわらず、11月下旬に開催されたOPEC総会で加盟国の生産枠を据え置いたことで拍車がかかった。原油価格の下落は産油国経済にとってはダメージとなるため、中東産油国はもとより、ロシアやベネズエラなどでも株価や通貨の急落に見舞われた。また、シェールオイルの開発がコストに見合わなくなったとして、北米のエネルギー関連企業の業績悪化懸念が株価の下落要因となった。

マーケットレポート原油価格は、WTI(北米産出の原油)で40ドル台前半と、一時は14年につけたピーク対比で60%程度の下落を記録した(図表1)。

しかし、これによって原油価格はほぼ足元の世界の原油需要に見合う程度にまで下落したと考えられる。加えて、原油価格の下落は世界の景気押し上げ要因となるため(日本の場合、原油価格が半値になった場合、実質GDPを0.4%強押し上げる効果があると試算される)、その分だけ原油需要を回復させることに繋がる。

したがって、原油価格の調整はほぼ完了したと考えられ、一段と下落して市場を混乱させるリスクは相当程度小さくなったと判断される。

一方、ギリシャ問題については、ギリシャ新政府の財政削減策がギリシャ政府への貸し手となるEUやIMFの承認を得られるかどうかにかかっている。リーマン・ショックを契機として露呈した財政危機により、同国は国債発行条件が悪化、歳入不足分を海外からの財政支援に頼っている。国民に対し、経済疲弊を招いている超緊縮財政の撤回を公約に選挙に勝利した新政府と、緊縮策の堅持による財政改善を支援条件としている貸し手側との交渉は、最終的には緊縮財政政策の手綱をどの程度緩められるかにかかっている。

もっとも、これまでギリシャの財政改善は順調に進んできた。13年には、公約よりも1年早くプライマリーバランスの黒字化を達成している。財政状況が悪化した他の南欧諸国と比較しても、同国の財政改善ペースは際立っている。いたずらに緊縮財政政策を強めても、それによって景気が冷え込めばかえって財政改善を遅らせるリスクもある。以上のことを勘案すれば、貸し手側と新政府との交渉の余地はあると考えられる。政治事は読みにくいものの、順当にいけば4~6月期中には新たな支援策で合意できると考えられる。

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いよいよ本格回復局面移行が見込まれる世界経済とマーケット

2014/10/01 :マーケットレポート

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 嶌峰 義清(しまみねよしきよ) 氏

※ 本稿は、2014年9月1日現在で執筆されたものです。

1. 不透明な中でも光明が見えてきた14年度前半のマーケット

2014年度上期のマーケットは、日本では消費増税後の景気の見極めに、海外では米国や中国の景気の動向やウクライナ情勢、中東情勢の混迷に目が向くなど、不透明感の強い環境で、方向感にも欠ける展開が続いた。

景気面に着目すると、日本では消費増税後の4~6月期の実質GDP成長率が前期比年率▲7.1%もの大幅な落ち込みとなったことが確認された。増税前の駆け込み需要からの反動減によるところが大きいものの、落ち込み幅は増税前に市場関係者が想定していたものよりも大きかった。夏場の個人消費についても、回復がやや遅いとの指摘があり、“年後半には早々に持ち直す” といった強気な見方は修正を余儀なくされている。

一方、海外ではとくに米国経済の順調な回復が目立った。1~3月期の実質GDP成長率は記録的な寒波・大雪の影響により前期比年率▲2.1%と大幅に落ち込んだが、天候回復後の4~6月期には同+4.0%(速報値)と大きく盛り返した。住宅市場の回復こそ頭打ちとなっているものの、雇用や個人消費、製造業の生産活動などの大半の経済指標が、米国経済の順調な拡大を示している。中国でも、景気停滞の主因となっていた輸出が米国向けを牽引車として加速に転じた。懸念されていた社債や理財商品の不良債権化も、政府が間接的に支払いを支援する格好で抑制され、市場の安心感に繋がった。

このように、内外の景気状況はやや異なるものとなったが、増税直後の日本以外の景気については、特に二大経済大国の米国と中国を中心に楽観的な見方が強まる格好となった。しかし、経済とは異なる要素が市場の雰囲気を重いものとした。それは、不安定な国際情勢である。

ウクライナ情勢は、4月以降は混乱が大きくなるような事態は避けられてきたため、次第に市場の関心も薄れていったが、7月には民間航空機撃墜事件が発生し、その後も情勢の悪化傾向が続いている。一方、中東情勢についても、イスラエルのガザ地区への侵攻、過激派「イスラム国」の問題など、同時多発的に混乱が生じている。こうした国際情勢を巡るニュースは、投資家のリスク選好性を抑える形となり、短期的な材料で不安定に動く市場の一因となった。

筆者は、本誌2014年4月号において2014年度上期のマーケット見通しについて述べさせていただいた。そのなかで、米国経済については寒波から脱した後は好調さを取り戻すほか、中国の不良債権問題についても当局が対応を誤らなければ大きな問題にはなりにくいとし、海外経済環境は良好さを増すと述べた。一方で、ウクライナ問題などの国際情勢不安、増税後の日本経済の見極めには時間がかかるとし、日本の株式市場を中心に一進一退の展開が続くと予想した。今後は、世界的な景気の拡大基調の持続性と増税後の日本経済への影響、そして引き続き国際情勢の展開が、市場のカギを握ることになろう。年度後半のマーケットについて、筆者は方向感の乏しかった今年度上期とは大きく異なり、市場の動きは急激なものとなると予想する。

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二つのハードルが待ち受ける2014年度上期のマーケット

2014/04/01 :マーケットレポート

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 嶌峰 義清(しまみねよしきよ) 氏

※ 本稿は、2014年3月3日現在で執筆されたものです。

1. 前後半で大きく異なった13年度下期のマーケット

 
2013年度下期のマーケットは、米国では議会での予算審議のもつれによる一部政府機関の閉鎖という異常事態、日本では安倍首相による消費税率引き上げの正式決定という、市場の不安を煽るようなスタートとなった。しかし、市場の反応は比較的冷静で、10月にも開始されると予想されていたFRBによるQE3(量的緩和政策第三弾)の縮小が政府予算審議の遅れもあって見送られたことをきっかけに、景気に対する楽観的な見方が一時高まる格好となった。日本の消費税問題についても、海外経済の回復による輸出増加にも支えられる形で、税率引き上げ直後に実質GDP成長率は駆け込み需要からの反動減により一時的に落ち込むものの、すぐに持ち直して拡大基調を維持するとの楽観的な見方が支配した。この結果、内外ともに市場の混乱はごく僅かにとどまり、年末にかけては世界的に株高基調を強めていった。
 
このように市場環境が良好さを保ったうえ、米国の予算審議の遅れが実体経済に及ぼす影響も限定的なものにとどまったことから、FRBは12月のFOMC(米連邦公開市場委員会:金融政策の決定会合)で、2012年秋から続けてきたQE3による国債などの買取縮小を遂に決定した。
 
それでも2013年中は先行きに対する景気の楽観的な見方に支えられて、株高・金利上昇・高金利通貨高という市場の流れが続いたが、年が明けて12月の米経済指標に市場予想を下回るものが目立つと、市場の雰囲気は徐々に警戒的なものへと変わっていった。米経済指標の下ブレは、もっぱら12月以降の北米地域での歴史的な寒波・大雪によるものであったが、2月に至っても寒波の勢いは衰えをほとんどみせず、長期化したことで経済への悪影響も広範に及んだ。
 
こうした米経済に対する不安感は、1月下旬に市場を揺るがした一部新興国からの資金流出問題に繋がった。QE3の縮小は、国債需給の悪化要因となるため、米金利に上昇圧力がかかる。FRBは、金利の上昇が行き過ぎて景気が失速してしまわないように、利上げへのハードルを高める旨表明したが、一部の実質金利(金利から将来の予想インフレ率を差し引いて算出)が低い新興国市場では、米国との金利差縮小懸念から資金流出圧力が高まった。特に大きな混乱を見せたのがアルゼンチンペソ相場であった。同国は、高止まりするインフレを背景にした自国通貨の下落圧力を為替介入でしのいできたが、投資家のリスク回避の動きが強まった結果、為替介入の原資となる外貨準備高が大幅に減少し、一時ペソ買い支えのための為替介入を停止したことで、アルゼンチンペソの対ドル相場は15%も急落した。これをきっかけに、トルコやインド、南アフリカなどでも通貨の下落が加速したが、いずれの国も利上げを実施して米国との金利差を拡大することで、自国通貨安圧力の緩和に成功、新興国通貨問題は短期間で一旦収束した。
 
しかし、寒波の影響により米国の経済指標は下ブレ傾向が続いており、一方で米金融政策は粛々と緩和を縮小していることから、景気の先行きに対する不安感から、13年度末にかけて市場の動きは不安定になっている。
 
筆者は、本誌2013年10月号において2013年度上期のマーケット見通しについて述べさせていただいた。そこでは、FRBによるQE3の縮小が行われても、行き過ぎた金利の上昇が抑えられれば米国経済はこれに十分耐えられ、結果として世界経済の持ち直し期待が高まり、世界的に株高・金利上昇の流れが強まると予想した。しかし、実際には年明け後のマーケットは不安定な動きとなった。これは前述したように北米地域における歴史的な寒波の影響に起因するところが大きいと判断される。したがって、14年度上期のマーケットは、米経済が寒波の影響によって冷え切っていないかどうかがカギを握る。一方で、日本では消費税率引き上げ後の景気の動きと、見えてこないとされるアベノミクス第三の矢である成長戦略が市場の関心を集めよう。

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自立を促される2013年度下期のマーケット

2013/10/01 :マーケットレポート

第一生命経済研究所 首席エコノミスト 嶌峰 義清(しまみねよしきよ) 氏

※ 本稿は、2013年9月2日現在で執筆されたものです。

1. 勢いを失った13年度上期のマーケット

13年度上期のマーケットを振り返ると、5月22日を境に環境が変化、日本のみならず世界的に市場の動きは大きく変化した。
 
この日、日本では日銀の金融政策決定会合が行われた。市場では、4月に行われた日銀の“異次元緩和” にもかかわらず、長期金利が上昇傾向をたどっていたことから、日銀が金利上昇を抑制する“何らかの手段” を講じると期待していた。しかし、日銀は追加的な緩和措置は講じず、黒田総裁も「景気回復下での金利上昇は自然な動き」として、事実上これを容認する姿勢を示した。これにより、長期金利の低下期待は後退し、先行きの金利低下を予想していた為替相場では、円安から円高へと大きく方向転換した。さらに、円の先安感が失われ、円高へと動きが転じたことで、株価は水準調整を余儀なくされることとなった。
 
一方、同日米国ではFRBのバーナンキ議長が議会証言で「景気の持続的な拡大を確信できる場合、今後数回の会合で債券購入のペースを減速させる可能性がある」と、近い将来にQE3(量的緩和政策第三弾)を縮小する可能性に言及した。これにより米国債市場では需給悪化懸念によって金利に上昇圧力がかかった。この影響は米国内にとどまらず、金利の上昇した米国への資金環流圧力を増大させた。すなわち、安全性の高い米国債の利回りが上昇したことで、相対的にリスクの大きい新興国の資産を売却する動きが活発化した。この結果、新興国の一部では通貨安や株安に見舞われ、景況感の悪化に拍車をかけている。

筆者は、本誌13年4月号において13年度上期のマーケット見通しについて述べさせていただいた。そこでは、国内においては日銀の量的緩和政策とアベノミクスへの期待による円安株高が継続し、景気も順調に明るさを増す一方、海外においては米国で家計のバランスシート調整が完了し、消費を中心に夏頃から回復感を鮮明にすると予想、世界的にリスク性資産への投資意欲が増す結果、株高傾向が続くと予想した。
 
しかし、前述したように、日米の中央銀行による金融政策姿勢の僅かな変化が、リスクを積極的に取っていくという市場の動きをつまずかせた。今年度下期は、金融政策の変化に各国の景気(ファンダメンタルズ)が耐えられるかどうかが焦点となる。

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