チャイナレポート

第36回 外国人観光客誘致活動には新潟県らしさを/新エネルギーカー黒猫白猫論

2017/02/01 :チャイナレポート

外国人観光客誘致活動には新潟県らしさを

JNTO(日本政府観光局)が発表した2016年11月末までの中国からの訪日観光客数は594万人となり、15年の年間累計の497万人を既に超えた。少し前まで盛んに日本でいわれていた「爆買い」「爆花見」などの爆〇〇などと表現する現象はみられないにも関わらず、過去最高を更新している。中国経験の長い経営者がよくいう「底知れぬ潜在力を持つ市場」である。

中国人の海外旅行は団体旅行が解禁され20年、個人旅行にいたっては7年程度しか経っていない。しかしながら、所得の伸びやSNSなどの多様な情報源の普及を背景に、市場規模の拡大とニーズの多様化が短期間で同時に起こり、市場構造が日々劇的に変化している。一方、供給者である旅行会社では増加する需要に追い付くことに精一杯で、消費者個々の多様なニーズを捉えた商品を市場投入する活動へ、経営資源を適切に配分できない状態が続いている。日本国内のインバウンドを推進する各種団体は、このような状態にある国内旅行会社に対して、食、温泉、自然など日本的なモノを盛んにアピールしている。アピールを受ける方にすれば、既にお腹いっぱいのところに同じ料理を次々にだされているという具合であろう。満腹の人に更に食べてもらうには、ひと工夫が必要である。

上海市のインターネットラジオ局が視聴者向けに昨年11月に実施した新潟県の印象についてのアンケート結果によると、新潟県は「美味しい米」以外に、ほとんど際立った印象がないという結果がでている。日本国内で行われている地域ブランド調査(※)でも、魅力度が47都道府県中35位と同じような傾向がでている。これらの原因の1つに、新潟県は米、酒、雪、花火、伝統芸能、大自然など良質な日本的なモノや観光資源が多くあるがゆえに、かえって1つ1つの特徴がぼやけてしまうという贅沢な悩みを抱えているといえるかもしれない。

読者の皆さんは、毎年10月に行われる「新潟シティマラソン」が中華圏のマラソン愛好家を惹きつけ始めていることをご存じだろうか。その背景には新潟の一番の魅力である食が最も充実する秋という「時」、萬代橋や信濃川そして佐渡島を望む日本海夕日ラインなど新潟市ならではの観光資源という「地の利」、地元新潟市や市内の各種団体という「人の協働」が三拍子揃っていることが挙げられる。地方のマラソン大会に外国人のマラソン愛好家が参加し、大会はより魅力的なイベントとなっている。その取り組みは、「スポーツ文化ツーリズムアワード2016」を受賞するなど政府からの評価も得ている。

ハードとしての各地域の観光資源に、地域に根差したコト、いい換えれば地域ならではの生活、文化、習慣などのソフト的要素が加わることにより、地域の魅力を更に際立たせることができる一例といえるのではないだろうか。

外国人観光客という新たな市場は潜在成長力が大きいものの、国際情勢の変化に大きく影響を受けるリスクの高い市場でもある。食、温泉、自然に根差した伝統文化など良質な日本的なモノが県内各地に溢れる地の利。鬼太鼓、雪まつりなどの地域に根差した文化や稲作、金物などの地場産業などの特殊性を培ってきた人の和。これらの魅力を最大限に活かせるとき、天の時。不確実性が高まりつつある現代に、新潟の誇る戦国武将の言葉は持続可能な取り組みとはなにかを教えてくれる。

(上海駐在員事務所 柄澤 雄)

(※) 株式会社ブランド総合研究所が2006年から年1回行っている調査。調査項目は各地域の魅力度を様々な項目から指数化したもの。

新エネルギーカー黒猫白猫論

中国公安省交通管理局は12月1日から上海、南京、無錫、済南、深センの中国5都市において新エネルギー車(中国語では新能源車といいます)専用のナンバープレートを導入しました。今回発行されるナンバープレートは緑色、黄色と緑色の組み合わせたデザインになっており、一目でその車が新エネルギー車であると分かります。環境意識の高い消費者層の所有意識をくすぐることでしょう(最近の日本語では、ドヤリングと言うのでしょうか?)。

上海市では排気ガスによる環境問題・交通渋滞の悪化を抑制するため、オークションによるナンバープレートの交付制限が導入されています。このオークションは月1回行われ、当選する確率は100人に4人弱くらいです。運よく当選しても、日本国内では軽自動車を1台買えるほどの購入代金(約150万円)を支払わなければなりません。このように上海における車の保有コストはとても高い一方、新エネルギー車のナンバープレートは上記の交付制限の適用を受けず、無料で交付されています。

新エネルギー車は日本のエコカーと少し異なる概念です。中国では電気自動車(EV)、プラグインハイブリッドカー(PHV)、燃料電池車を主に新エネルギー車と定義しています。自動車先進国であるアメリカでも、西海岸でハイブリットカー(HV)を除くEVとPHVだけをエコカーとして認定する動きと同じです。現在、全国で約56万台(同定義による日本は2016年3月末で約12万台)の新エネルギー車が登録されています。

普及率はまだまだ低いですが、政府は補助制度や減税策などを導入し積極的に推進しているため、16年11月時点の販売台数は前年同期比約60%も伸びています。上海の同済大学が若者を対象に実施した自動車に対する最近の調査結果によると、消費者意識の面でも、ガソリン車より新エネルギー車が好まれる傾向が高まっていることが明らかになるなど、将来の購買層の意識も変化してきています。さらに、中国政府は今年8月に完成車メーカーに対して、EV、PHVなどの「新エネルギー車」の生産、輸入を一定の割合で義務付ける規制に関する意見募集稿も発表しています。

このように新エネルギー車普及に向けた動きが急加速していますが、本当にこのまま伸び続けていいのでしょうか。米国の経済研究所(NBER)の学者が排気ガス量、燃費効率、汚染拡散、ガソリン消費量に相当する電力消費量などの各種の関連データを分析し、一部のエコカーはガソリン車より環境へのダメージが大きいという意見もあります。ガソリン車が出す排気ガスだけでなく、エコカーに必要な電力を生み出す発電所の排気ガスにも目を向けて考えれば、再生可能エネルギーなどとのエネルギーミックスも同時に考えなくてはならないと思います。また、中国政府の普及促進に向けた各種減税優遇策により、補助金の詐欺事件などの問題が新たに発生しています。急成長の陰には必ず弊害も存在するものです。ここで少し立ち止まり、中国の環境問題にとって本当に効果的な施策は何なのかを考える必要があると思います。

(上海駐在員事務所 范 文佳)

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第35回 便利さの向こう側/中国の食品安全とビジネスチャンス

2016/12/01 :チャイナレポート

便利さの向こう側

チャイナレポート上海で最近、人気がでてきている自転車のレンタルサービスを紹介します。白とオレンジ色のちょっと目を引く自転車が、今年の夏頃から市中心部でよくみられるようになりました。この新しい自転車レンタルサービス名を、「MOBIKE(摩拜单車)」といいます。

このサービスは、ウーバーの元上海区総経理王暁峰氏の新しいチームが「目的地まで最後の1キロを解決!」をコンセプトに開発され、上海市、北京市を手始めに開始されました。

従来の自転車レンタルサービスでは、指定された駐輪場から駐輪場の間の移動に限られていましたが、MOBIKEは「点から点」の移動ができることが特徴です。

MOBIKEの利用方法について紹介します。まず利用開始時に、スマートフォンでアプリをダウンロードし、299元(4,784円(1元=16円))のデポジットを差入れます(デポジットはもちろんオンライン支払)。利用料金は1元/30分(16円)。支払いは微信や支付宝(中国大手のモバイル決済アプリ)のネット決済を利用します。次に具体的な利用方法では、実名認証(中国人はIDカードの写真を送信、外国人の場合はパスポートの顔写真が必要)を行い、アプリを起動します。アプリを開くと、地図画面に自分の居場所の近くにある利用可能な自転車が表示されます。そのなかから利用したい自転車を選んで、予約ボタンを押すと、その自転車は15分間保留されます。選んだ自転車が置いてある場所へ行きます。みつからない場合は画面のRingボタンを押すと自転車から音が出ます。自転車をみつけたら、アプリ画面下の「解除」ボタンを押すと、バーコードスキャンの画面になり、自転車に付いているバーコードをスキャンして暫く待つと、自動で開錠され利用開始です。返却時は後輪の固定鍵をロックするだけ、3回ビープ音が鳴れば、スマホアプリにより返却手続きの完了が通知されます。MOBIKEの返却場所は、歩道上に表示されている囲まれたスペース内であればどこに駐輪してもよく、非常に便利です。

サービスの利用上幾つかの禁止事項が設定され、利用者に対するマナーの啓蒙を図る仕組みがあります。禁止事項の例として、自分の鍵を使って施錠することの禁止、自宅や住宅街への持ち込み禁止などがあり、禁止事項に違反した場合は交通違反点数のように20点の減点(最初の持ち点は100点)がされます。持ち点が80点以下になると、MOBIKEの利用料は、100倍の100元/30分間(1,600円)まで跳ね上がります。更に、違反をしている自転車を申告すると加点される制度もあるなど、中国らしいルールが設定されています。

上海市では今年の春から、交通マナーの改善強化運動が開始され市内中心部の多くの道路が駐停車禁止区域となり、多くの人が困っていた状況にあったので、このサービス利用者数は現在、急増しています。交通マナーの改善運動に対する課題解決として生まれたこの便利な新サービス。自転車運転マナーという新たな問題を生じさせないか少し心配です。
(上海駐在員事務所 范 文佳)
(注:寄稿時 1元=16円)

中国の食品安全とビジネスチャンス

【はじめに】

中国国内では政府による積極的な対策強化にも関わらず食品偽装事件が発生し、「食の安全」が強く求められていることは周知の通りであるが、個人所得の増加を背景に「食の安心」に高い意識を持つ人々も年々増加している。全国的にみても食品製造業が多い新潟県にとって中国における食品安全への取り組みがビジネスチャンスとなるか考察してみたい。

【中国の輸入食品規制】

東日本大震災に伴う原発事故の影響から、中国政府は2011年4月9日以降、新潟県を含む日本の10都県(福島、宮城、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、新潟、長野)産の食品の輸入を停止している。輸入停止から既に5年が経過するが、解除する見通しはたっていない。新潟県の食料品を中国国内市場へ直接、輸出することは残念ながらできない。

【中国の食品安全】

中国では、食の安全に関する問題の発生が続いたため、「史上最も厳格」といわれている「改正食品安全法」が2015年10月に施行された。同法では食品安全のトレーサビリティ体制構築や違法行為に対する罰則強化など管理範囲が強化されているが、法改正が行われた背景には、中国の消費者における食の安全に対する意識の浸透と高まりがある。食品の安心安全と同時に味に対する意識が高いといわれている日本の消費者市場で戦っている日本企業にとって、その能力を活かせる新たな市場となるのではないだろうか。

【深化する日本料理市場】

チャイナレポート2上海における日本料理の広がりを考えると、「飲み食べ放題システム」と「訪日観光客増加」がポイントとしてあげられる。

「飲み食べ放題システム」とは、簡単にいえば日本食バイキングである。バイキングは高級ホテルを除けば日本料理店以外にはほとんどみられず、多種多様な料理を安価に楽しめる機会を提供するこのシステムは外国の料理になじみの浅い人のなかに、広く深く日本料理を浸透させる仕組みとなっている。近年の中国人訪日観光客の増加により、うなぎ料理などの専門店、個人営業の居酒屋や小料理屋など販売チャネルの多様化が起き日本料理市場がより深化してきている。上海市内の動向だけで市場全体の動きを判断することはできないが、他の都市でも同じ様な発展パターンがみられ、今後の方向性を示すものとして考えてもよいのではないか。

【新潟県企業の可能性】

新潟県の食品製造業のなかで、既に中国国内で製造販売を行い、売上が順調に拡大している企業が存在している。県内には多様な食品製造業が存在し、現在の中国市場が求めているモノ、サービス、ノウハウを保有している企業が存在する可能性は高い。さらに、食品製造業を支えるサプライチェーンにおけるさまざまな関連分野(原材料、計測器や生産設備、包装、物流管理など)の企業においても、中国市場の抱える課題を解決することができるであろう。中国の食の安全問題と日本食の深化をキーワードに自社の可能性を検討してみてはいかがだろうか。
(上海駐在員事務所 柄澤 雄)

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第34回 「爆買い」の先へ/上海夜猫子事情

2016/10/03 :チャイナレポート

「爆買い」の先へ

【はじめに】

今年に入ってから日本の新聞や雑誌で「中国人による『爆買い』失速」「インバウンドブームの終焉」といったキーワードを目にする機会がある。こうした報道からは、中国経済の失速により、訪日旅行自体が失速している様な印象を受けるが実際はどうなのか。本稿では最近の中国人旅行客の動向についてまとめていきたい。

【1人当たりの消費金額は減少するも訪日客数は増加】

全国百貨店協会が発表している「全国百貨店売上高概況」をみると、訪日外国人による売上高や購買単価は下落傾向にある。中国からの訪日客の動きについて詳しくみていくと、円高の進行、海外で購入した贅沢品を中国に持ち込む際の関税の引き上げ、中国の空港での税関検査の厳格化などを理由に贅沢品の購入は減少している。しかし、スキンケア商品、オムツなどの日用品については、昨年関税の引き下げ対象となったため依然として根強い人気がある。こうした状況をふまえると中国人旅行客による日本での買い物需要がなくなったわけではない。

2016年7月20日に日本政府観光局(JNTO)が発表した、16年上半期の訪日外国人の累計は前年同期比28.2%増の1,171万人となり過去最高を更新した。中国からの訪日客数も、前年同期比41.2%増の307万人と過去最高となっている。増加要因としては訪日ビザの発給要件の緩和、クルーズ船の寄港増加、日中間の地方航空路線の拡大、国・自治体による訪日旅行プロモーションの効果などがあげられる。

総じてみると、消費金額で減少しているが訪日客数は増加しており、中国人旅行客が日本から離れているわけではない。

【広がる日本旅行へのニーズ】

チャイナ1上海市内の旅行代理店に最近の中国人旅行客の動向について旅行形態別に話を聞いた。要点は以下のとおりである。「個人旅行の割合が団体旅行の割合を上回っている」「個人旅行は上海やその近隣都市に住む、日本旅行の経験があるリピーター客に人気」「団体旅行は内陸部や東北部など地方都市に住んでいて、初めて日本を旅行する人が申し込むケースが多い」「個人旅行で人気のプランは『郷土料理の食べ歩き』や『ローカル線での記念撮影』など」「リピーター客の参加が多い個人旅行は『その土地でしか経験できないこと』『鉄道、カメラなど趣味を楽しめる』といったプランを盛り込むことが重要」「顧客のニーズは拡大している。その土地ならではの観光情報を日本の自治体、企業からどんどん提供してほしい」「団体旅行は初めて日本に旅行する人向けの商品が中心」「初心者向けの商品で特に人気があるのはクルーズ船を利用したツアー」
「クルーズ船での移動は目的地まで乗り換えの必要がない点、お土産等たくさんの荷物を運べる点が評価されている」「団体旅行のなかで注目の旅行プランは教育機関による交流旅行」「交流旅行とは中国の小・中学生が吹奏楽、サッカーなどの文化・スポーツ活動や太鼓・三味線等の伝統芸能を通じて、日本の小・中学生と親睦を深める企画」

【口コミ情報がカギ】

現在、中国では「WeChat(微信)」と呼ばれるSNSが普及している。日本で人気のあるLINEと同じ様なサービスである。SNSを幅広い年齢層の人々がコミュニケーションの手段として利用しており、SNSを利用した「観光情報」の共有が進み、これまでなかった旅行ニーズが創り出されている。多様化する旅行ニーズを取り込むためには、まず「中国のインターネット旅行サイトに掲載されている口コミ情報」やブログといった媒体から中国人旅行客が興味を持っている情報や嗜好に関する情報を収集し、彼らがSNSを通じて情報を共有したくなるサービスを開発することが有効ではないだろうか。自分達が気づいていない、地元の観光資源を外国人の目を通じて発掘していくことは、決して無駄なことではないと思われる。

【地方にもインバウンドのチャンス】

チャイナ2「中国人をはじめとする外国人旅行客は東京、大阪などの大都市や九州、北海道などの有名観光地にしか興味がない」「地方の零細企業、地方の自治体にはインバウンドなんて関係ない」こうした意見をお持ちの方あると思うが、ここで方を少し変えてみてはいかがだろうか。たしかに、中国人観光客にとって大都市での買い物は、品質の良い日本製品を購入するチャンスであり、人気の観光コースである。しかし、日本を訪れたことがあるリピーターが増加している今、「モノ」だけでなく各地で体験する「コト」への関心が高まっているのは、先の上海市内の旅行代理店での話のとおりである。

現在、中国の航空会社では中国の地方都市から日本の地方都市への旅行者を増やすため、旅行会社、公共交通機関運営団体等と連携し、様々な施策を展開している。人気路線である中国の大都市と日本の大都市を結ぶ路線の運営に注力するだけでなく、地方都市に住む人に日本旅行のニーズを喚起するため懸命に努力している。こうした中国企業と日本の地方にある都市や企業が連携し、新たなビジネスチャンスを生み出していくことができるのではないだろうか。

円安を受けて急拡大した贅沢品の大量購入はなくなったが、品質の良い日本製の生活用品は中国市場で根強い人気があり、日本を訪れて買い物をしたいと思う中国人旅行客がいなくなったわけではない。また、新たな旅行ニーズも生まれてきている。「爆買い」の先にある新たな商機は身近にあるのではないだろうか。新潟県内企業や自治体がインバウンド需要を取り込むためのヒントを引き続き探していきたい。
(上海駐在員事務所 柄澤 雄)

上海夜猫子※事情

チャイナ3日本では、深夜にお腹が空いた時に行く場所といえば、コンビニや遅くまで営業している居酒屋さんでしょうか?上海にも夜食文化があります。中国語では夜食のことを「夜宵(イエシャオ)」と呼びます。夜宵といえば、かつては小さな店で提供される蘭州(ランジョウ)ラーメンや麻辣湯(マーラータン)、羊肉の串焼きなどが一般的だったのですが、ここ数年では、中華料理店など本格的な店舗で深夜営業を行う店が増え、夜食業界は多様化してきています。

また、上海の夜食事情では、「夜市(イエシ)」の存在をぬきに語ることができません。「夜市」とは、夕方から深夜まで営業している露店が並ぶ地域のことです。有名な中国台湾の夜市と同じようなものと言えば分かりやすいでしょうか。上海市内で人気がある「夜市」は、市内西部地区では「臨汾路夜市」、市内東部地区では「昌里路夜市」が挙げられます。夜市では、アクセサリー、生活雑貨、衣類などさまざまな屋台がならび、しかも激安価格で売られていますが、やはり「食」、特に、B級グルメが人気です。

数ある夜食店のなかで、上海の夜猫子達、特に若い夜猫子世代の間では「夜にだけ営業する朝食メニューの店(夜市豆浆油条店)」がブームになっています。上海の朝食定番メニューと言えば「大餅 (ダービン)」や「油条 (ヨウティヤオ)」があります。「大餅」とは、薄くの伸ばした小麦粉生地に油を塗って何層にも重ねて焼いたもので、甘い味と塩味の2種類があります。「油条」とは、小麦粉をこねて発酵させたものを細長く伸ばして油で揚げた揚げパンのようなものです。

この夜のみの朝食メニュー店は夜7時に開店し、午後9時頃から行列ができ始め、夜が深まるほど賑わいます。店内ではビールの代わりに豆乳(砂糖がたっぷり入った甘いものやしょっぱいもの)を片手に、大餅や油条を多くの若い夜猫子達がほおばっています。

話は少しずれますが店舗の中央に書かれている文字「本店支持 微信付款、支付宝付款(モバイルペイメントに対応しています)」があります。中国ではこのような店舗でも消費者ニーズに応える形でキャッシュレス化が広く浸透しています。面白いですね。

夜に朝食メニュー?と思うかもしれません。上海では15年くらい前までは街のいたるところに豆乳や油条、粥などを売る小さな店がたくさんあったのですが、パンとコーヒーの西洋の朝食文化、コンビニなどの新しい小売形態が日常生活に浸透してきたこと、また、食に対する安心、安全対策が強化されてきたことにより、このような伝統的な小店舗は次第に姿を消していきました。世界中から流入するさまざまな新しいモノ、コトに常に触れている若い世代が子供の時に食べていた豆乳や油条など伝統的な食文化を楽しむ姿からは、失ってよいもの、よくないものを考えさせられます。

※ 夜猫子(イエマオズ)中国語で夜更かしする人のことです。

(上海駐在員事務所 范 文佳)

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第33回 上海ディズニーランド開園/交通マナー改善中!

2016/08/01 :チャイナレポート

上海ディズニーランド開園

「上海ディズニーランド(以下:SDL)」が6月16日に正式オープンした。中国本土で初、アジアでは日本と香港に次いで3番目のディズニーランドである。世界のディズニーリゾートのなかで一番の高さ(地上60m、20階建てマンションと同じ)を誇る「EnchantedStorybook Castle」をはじめ、「世界初」のアトラクションが多数登場している。

【概 要】

「SDL」は上海の東の玄関口「浦東国際空港」と市中心部の中間地点、中心部から東に約20km、地下鉄で約40分の位置にある。園内は6つのテーマランドに分かれ、全てのエリアに世界初の技術を用いたアトラクションが用意されている。主なものを紹介すると、高さ60mと世界のディズニーランドの城のなかで一番の高さを誇る「魔法にかかったおとぎの城」や同じく世界初となる「パイレーツ・オブ・カリビアン」のテーマランド「treasure cove」、「アナと雪の女王」のショーを行う「ファンタジーランド」など、多数のアトラクションが用意されている。

開園当初のテーマパークの敷地面積は約116haとされており、東京ディズニーリゾートの約100haを少し上回る程度だが、3期に分かれる計画が全て終了すると約400haまで拡張され、世界最大のディズニーランドとなる予定である。地元紙によれば、第2期の拡張工事はすでに着工しており、「トイ・ストーリー」のアトラクションなどが追加される予定となっている。

チケット価格はレギュラー(平日)370元(約6,700円)、ピーク(土日祝日、夏休み)499元(約9,000円)、東京ディズニーランド(以下:TDL)と比較すると少し割高である。なお、オープンから6月30日までのチケット価格はグランドオープン期間に該当するためピーク時と同じ499元が適用されている。一般的なチケットの入手方法は、運営する「上海ディズニーリゾート」の公式サイトやWeChat(中国のSNS)、中国国内の提携旅行会社を利用して購入する。

【開園時の反応】

開園の模様は日本国内でも大きく報道されたが、一部のマスコミでは「路上にゴミを捨てる」「トイレ以外の場所で用を足す」といったマナーの悪さや「待ち時間が長い」様子を切り取り面白おかしく伝えられた。

中国国内では、「園内はこまめに清掃されておりキレイだった。路上にゴミを捨てる人は見かけなかった」「トイレのマナーの問題は待ち時間の長いアトラクション付近で発生していた。簡易トイレの整備が追い付けば、問題は解消されるだろう」「待ち時間については正確な予想待ち時間の表示と適切な誘導ができていないため、若干混乱を招いていた感じはある。その点は今後の運用課題かもしれないが、スタッフの習熟で解消されるだろう」など肯定的にとらえる人が多い。マナーの悪さや改善点がある点は否定できないが、短期間に水準をここまで上げてきた事実にむしろ感心させられる。

そのほか、園内の飲食サービスでは観光地価格ということもあり、市中に比べ2~3倍になっている。TDLと比較して特段高い印象はないといった意見や味も良いという意見を多く聞く。

中国市場での人気を測る代表的なバロメーターはウェブ上の反応である。SNSサイト「微信(WeChat)」や「微博」に寄せられている反応をみると、「乗り物が楽しくて大満足」「食べ物がおいしかった」「スタッフの対応がとても親切」と好意的なものが多く評判は上々のようだ。また、TDLを経験している中国人のなかでも「遜色無く十分に楽しめた」との声が多い。

【モノからコト消費】

中国の中央銀行である中国人民銀行は本年2月に現在の中国経済を「重工業の高成長により、個人所得のレベルは向上している。今後、個人の消費、サービスの要求は、医療、教育、レジャー文化等のサービス分野に対し、より多くを求める形になっている」と表現した。実際、世界中から中国国内へ様々なモノが輸入され、大都市ではモノが溢れかえり、都市住民の多くが物質的な豊かさを享受している。上海など代表的な都市ではその程度は日本を上回っている。このような環境下で開業を迎えたSDLの意味は大きい。中国市場がモノ消費からコト消費へ変化する時代の象徴のひとつといえるのではないだろうか。SDLの良質なサービスが中国国内のサービス業の発展や水準の向上へつながる触媒となるか、その行方に注目したい。
(上海駐在員事務所 柄澤 雄)

交通マナー改善中!

上海市では、3月から交通違反の取り締りが強化されています。交通違反や交通マナーの改善、さらには渋滞緩和を図るため従来から取り締り強化運動は行われていますが、今年の活動は従来と少し異なるようです。

まず、公安局は違法駐車やナンバープレートの偽装、歩行者の信号無視などに対し、集中的な取り締まりを従来にない規模で行っています。「上海市文明交通3年行動計画(2016-18年)」のなかでは、市民に対してドライブレコーダーの映像やSNS(WeChat)、短信(ショートメッセージ)などで当局へ交通違反行為の通報を推奨するなど体制を強化しています。

また、市中心部の道路では、境界ブロック(歩道と車道の境界線)が一晩にして黄色に塗られました。この表示は「駐車禁止」ではなく、「停車禁止」を意味します。この色が塗られた道路では、わずか数秒間でも停車が禁じられます。もし、警察官に発見されると200元(約3,600円)の罰金のほかに、3点の減点(中国では運転免許保有者には12点が与えられ、1年間に合計12点を減点された場合、15日以内に交通安全の講習をうけなければならない)が課せられます。

さらに、市内全域ではこれまで無法地帯だった交差点で警官が睨みをきかせています。このような運動の結果、5月中の上海市の交通違反検挙者数は1日あたり平均11.7万人を記録したと地元紙は報道しました(ちなみに、新潟県における交通違反検挙数は平成26年度実績で10.4万件)。

検挙の強化に加え、公安局は4月中旬から、信号無視をした市民(含む外国人)12人の顔や現場写真、発生した場所などをSNSで公開し始めました。映像では目隠し加工はなく、知人であれば誰であるかすぐに特定できます。

市統計局によると、96.7%の市民が今回の取り締まり強化に賛成し、78.1%の市民が「取り締まりの実施効果が認められる。または効果が出る」と答えたとの結果が出ています。「交通マナーでどんな行為が一番改善してほしい点か」という設問に対しては、1位「歩行者の信号無視」47.2%、2位「自転車やバイクの交通違反」40.9%、3位「自動車の違法駐車」36.2%であるとしています。

上海は国際的な大都市として、交通システムが日々進化する一方で、交通安全や交通マナーの向上が追い付かず従来から課題となっていました。今回の運動が市民に受け入れられている理由として、今まで違反行為が見過ごされてきたことや交通マナーに対する市民意識の高まりを反映している結果ということができるかもしれません。

日本から中国へ来られる方々、くれぐれも中国のマナーに慣れないようご用心ください。
(上海駐在員事務所 范 文佳)

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第32回 イノベーティブな国、中国

2016/06/01 :チャイナレポート

中国の通信業界専門シンクタンクの調査によると、2015年の中国におけるモバイル端末による決済額は、前年の2倍となる16兆4,000億元(約285兆3,600億円)に達したという。これはアメリカの約1.3倍の規模にあたり、世界最大規模になっている。

中国国内の現在のインターネット人口は約6億6,800万人といわれ、全人口に対する普及率は48.8%となっている。このうち、スマートフォンやタブレット端末などの携帯端末を通じたモバイルインターネット利用者は、5億9,400万人。インターネット利用者に占める比率は88.9%にも及んでいる。

日本のインターネット人口は約1億人で普及率は82%と高いものの、スマートフォンの利用割合では50%程度にとどまっている。この差から、中国でスマートフォンがいかに普及しているか想像できるだろう。

中国の電子決済の歴史を振り返ると、既存金融機関は1997年にインターネットバンキングサービスを開始したものの、顧客へのサービス窓口が変わっただけで、既存サービスは進化せず、悪用への懸念からクレジットカードの普及も先進国に比べ進まなかった。

一方、第三者決済機関が新たな決済手段である「支付宝」や「微信支付」の提供を始め、電子商取引、ゲーム、交通機関チケットなど幅広い業界を巻き込みながら電子決済が爆発的に増加してきている。

その成長の舞台がスマートフォンという情報通信機器であり、スマートフォンの持つ利便性を活かした多様な新しいサービスが日々続々と登場している。その動きの広がりやスピードは極めて印象的であり、「イノベーション」の可能性を強く感じる。

例えば、スーパーやコンビニのレジ。以前は、銀聯カード(デビットカード)や現金が主な支払手段であった。中国は人口が多いことから、ちょっとした買い物でも常に長い行列に並ぶ必要があった。しかし、今では「支付宝」や「微信支付」、さらには「アップルペイ」などのモバイル決済が主流になりつつある。弊事務所の入っているビルのコンビニで支払方法をみていると、10人に8人程度はモバイル決済を利用している。

キャッシュレス化の浸透は、日本をはるかに上回るスピードで広がっている。

チャイナレポート表中国の現金流通高(年末残)は増加基調にあるものの、名目GDPに占める現金流通高をみると2004年に「支付宝」が開始された以降、毎年低下し15年では9.2%を記録し、アメリカの8%と同水準まで低下している。同数値が20%を超える日本国内とは違う経済環境が中国にはあるのだ。これからの中国市場への展開を考えるうえでは「キャッシュレス化」がキーワードになるだろう。

さらに、新たな決済手段は消費スタイルにも影響を与えている。飲食店を選ぶにあたって、「支付宝」の利用ができるかが重要な条件となってきている。そのため、ローカルなお店でも「支付宝」で支払いができる店舗が増えている。

これらの新たな決済手段は、利用者にとって使い勝手が良く、販売店もカードリーダーなどの投資が不要であり、利用履歴などのビックデータを活用すれば新しいサービス開発が可能となるため、双方にメリットが見込め、浸透を加速させているようだ。

また、決済サービスの他にも新しいサービスが続々登場している。

①医療

中国では、良い医療機関を受診するには行列で何時間も待たなければならないうえ、医療費の自己負担額も日本に比べると各段に高いという現状がある。このような医療現場の課題に対し、医師への相談を安価な価格でチャット、電話、テレビ電話などを介して提供するほか、医療レベルの高い病院の予約サービスもしてくれるアプリに人気が集まっており、現在のユーザー数は9,200万人にも及んでいる。

②出前宅配

チャイナレポート表2日本でも出前宅配サービスが提供されているが、中国の同サービスは情報量が格段に日本を上回っている。チェーン店に加え、地元の名店、老舗や町内の住民しかわからないような地元密着店にいたるまで多種多様な店舗情報を入手することができる。また、価格についても宅配料金無料に加え、店頭料金よりも安く設定されている場合が多いので、一度使うと継続して使う人が多い。

先日も早朝に、20代らしき女性が弊事務所が入居するビルの入口で、配達業者から朝食用と思われる豆乳とパンを受け取っている光景に出くわした。ビル内に入れば10メートル先にはコンビニもあるが、出勤時間すれすれに会社へ出社することが一般的な社会ではこのような使い方も存在する。

③洗車

チャイナレポート表3上海などの大都市では大気汚染が酷いこともあり車がすぐに汚れる。このため洗車需要が高く週末を中心に混雑している。上海を中心とする華東地区は水不足という問題は少ないが、水資源の少ない北京や西部地区では洗車は贅沢なサービスである。この出張洗車サービスでは、アプリで車の周辺にいる清掃員を呼ぶと、専用バイクに乗った清掃員がやってきて無水洗車サービスを安価で提供する。場所を選ばず洗車サービスを享受できるだけでなく、修理、中古車販売などの車関連サービスも提供していることから人気が出てきている。

このような新しいサービスが次から次へと生まれてくる理由の一つに、中国国内には消費者のニーズを高いレベルで満たすようなモノやサービスがまだまだ不足しているという現実がある。経済力をつけた消費者はよりよいサービスを求めている。見方を変えれば、中国市場はまだまだ魅力的なのである。

中国経済は、従来型産業の不振や経済の成長スピードの鈍化等のマイナス部分に関心が集まっているが、消費市場ではインターネットを軸として、さまざまな新しいビジネスモデルが続々と現れており、明るい部分も多く存在している。

(上海駐在員事務所 川邊 正則)

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第31回 拡大する中国企業の対外投資

2016/04/01 :チャイナレポート

1.はじめに

チャイナ1中国は改革開放政策の下、世界各国から投資を受け入れることにより世界第2位の経済大国へ成長したが、日本や欧米諸国と同じく海外投資も積極的に行っており対外投資国へとその姿を転じつつある。

中国の対外投資額は2015年まで13年連続で増え続けており、その規模は海外から中国への投資受入額とほぼ同水準となっている。例えば、中国企業がスイスの農薬最大手企業を5兆円超で買収すると報じられたのは記憶に新しい。また日本でも、上海の企業による北海道の星野リゾートトマムの買収や、格安航空会社の春秋グループによる日本でのホテル事業への投資など、中国企業による対日投資が報じられている。UNCTAD(国連貿易開発会議)の最新の報告によれば、対外投資額において中国はアメリカ、香港に次ぐ世界3位となり、対外投資国としての存在感が増している。

2.中国企業の海外投資(「走出去(ゾウチュウチ) 」)

チャイナ3中国企業の海外投資は、1999年に導入された「走出去(Go Global)」政策を機に本格的に始まった。当時は資源の安定確保を目的に、国有企業による石油・天然ガス、鉄鉱石など鉱業向け投資が主なものだった。現在は、2000年以降の急速な経済発展を背景に力をつけてきた民間企業が主役となり、海外企業の有する先進技術や市場シェアの獲得を目的に商業・サービス業、リース業、卸・小売業、金融、鉱業、製造業など幅広く投資対象を広げてきている。

投資対象を地域別(金額ベース)でみると、アジア向けが6割超を占め、中南米、ヨーロッパ、北米向けの順に多い。さらに、投資額の推移に目を向けると、リーマン・ショックを契機に急拡大してきている。日本の報道機関は中国が現在抱える国内の過剰設備問題の発端をリーマン・ショック後に行われた大規模刺激策に起因すると批判的であるが、この刺激策は中国企業による対外投資という形により、間接的に他国企業にも恩恵を与えている。日本での具体例では、ラオックス、本間ゴルフ、レナウンなど経営不振に陥った日本企業が中国企業により救済される事例が09年以降、発生している。

3.日本への投資は小規模ながら増加

チャイナ4中国の対外投資のうち、日本向けは約2,900億円(2014年末累計)、シェアでは0.3%程度でしかない。一方、日本側からみれば、中国からの投資額は第7番目とトップ10入りしている。投資額は年々増加傾向にあり、日本における存在感が強まりつつある。

最近の日本への投資事例としては、急増する訪日外国人をターゲットとしたものが挙げられる。例えば、格安航空大手の春秋グループは訪日外国人をターゲットとして、日本の主要観光都市でホテル事業を展開する計画を発表している。また中国の家電量販店最大手の蘇寧電器傘下にあるラオックスも、爆買い中国人を主なターゲットに全国で訪日外国人向け免税店を展開している。一方で、日本企業の持つ先進技術やノウハウの獲得を目的とした投資も行われている。中国を代表するハイテク企業の華為技術(ファーウェイ)は、2010年に日本に研究開発センターを設立した。同社は毎年売上高の10%以上の資金を研究開発に投資しており、日本拠点では日本の人材を活用して高機能型のスマートフォン端末の開発を行っている。また部材調達において、ジャパンディスプレイや東芝など日本企業からの調達を拡大し、スマートフォンの世界シェアをサムスン、アップルに続く3位に伸ばしている。ファーウェイは同社の世界成長戦略において、日本の産業界と高い補完関係を構築できていると述べる。

4.今後の展望

チャイナ5日本政府は現在、アベノミクスの成長戦略の重要な柱の1つとして外資の導入を推進し、2020年までに対内直接投資残高を12年末時点の2倍(35兆円)に引き上げる目標を掲げている。対日投資の窓口である日本貿易振興機構(ジェトロ)は、「INVEST JAPAN(日本へ投資しよう!)」を標語に外国企業の誘致活動に積極的だ。15年度はアジア(北京、香港、シンガポール等)や欧米(ニューヨーク、ロンドン等)で対日投資セミナーを開き、現地企業に日本への投資を呼びかけている。これまでの実績として、ジェトロが中国企業を日本へ誘致した件数は03年から14年の累計で120件超となっている。

世界経済が低成長時代に入っている現在、先進国を中心に大企業はM&Aによる成長戦略を加速させている。中国企業も「新常態」の下、同じ成長戦略を描いている。M&Aと聞くと欧米のハゲタカファンドの様な印象を受けるかもしれないが、先に述べた春秋グループやファーウェイの事例が示すように、中国企業の対日投資は日本企業の存在基盤を必ずしも脅かすものではない。むしろ、自社が保有する経営資源と相互補完を図れる日本の技術やノウハウを活用し、中国国内市場や世界市場で生き残ろうとする姿勢があるように思われる。日本企業の中国展開は現地法人や合弁会社設立など対外直接投資がこれまで中心となっていた。中国企業が相対的に競争力をつけてきた今、中国企業の持つ豊富な資金力や販売ネットワークを活かすような「したたかな」成長戦略を描いても良いのではないだろうか。

(上海駐在員事務所 佐藤 誠)

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第30回 中国で浸透する日本の小説ブーム

2016/02/01 :チャイナレポート

チャイナ12015年は中国において久々に日本のアニメ映画が上映された年であった。尖閣諸島の問題が発生して以降、日本の映画は約3年にわたって中国で上映が認められていなかったが、5月に「STAND BY MEドラえもん(中国語:哆啦A梦 伴我同行)」が公開された。この映画の興行収入は中国におけるアニメ映画の1日興行収入記録を塗り替えるほどの大ヒットとなった。また11月には約4年ぶりにコナンシリーズの「名探偵コナン 業火の向日葵(中国語:名探偵柯南 業火的向日葵)」が上映され、多くの中国人ファンを魅了した。

アニメに留まらず、日本の小説も人気が高い。日本の映画が上映されていなかった期間も、本屋の店頭には多くの日本の書籍が並べられていた。村上春樹の『ノルウェイの森(中国語:挪威的森林)』、『1Q84』などは従来から人気がある。また少年少女向け小説として、黒柳徹子の『窓ぎわのトットちゃん(中国語:窓辺的小豆豆)』は正式な訳本が出た2003年以降の累計販売数が700万部を超え、中国人作家を抑えてベストセラーが続いている。

そして、最近は東野圭吾がブームだ。中国でその知名度を上げたのは08年に中国で翻訳された『容疑者Xの献身(中国語:嫌疑人X的献身)』であるが、現在は『ナミヤ雑貨店の奇蹟(中国語:解憂雑貨店)』が大変な人気となっている。中国書籍専門サイト「開巻」の業界販売統計によれば、フィクション部門で『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は15年1月以降、毎月トップ10に入っている。日本人作家としては、10年の村上春樹(『1Q84 BOOK1』)以来5年ぶりのトップ10入りだ。中国のアマゾンの書籍売上ランキングでも、『ナミヤ雑貨店の奇蹟』は15年上半期で堂々の1位を記録した。多くの中国人の共感を呼んだことにより、この小説は東野作品としては初めて中国で映画化されることも決まっている。

チャイナ2この作品は、様々な悩みの相談に誠実にこたえる「ナミヤ雑貨店」を舞台に繰り広げられる感動的なミステリー小説である。中国アマゾンのサイトでは同作品に対する読者の評価数は6,500件を超えていて反響が大きい。中国の人気作家(郭敬明、韓寒など)や村上春樹の評価数と比べても約2~3倍と非常に多い。多くの読者は「この1年で読んだ作品で最も感動した」「良い作品に出合って心が洗われた。子供にも読ませたい」「神秘的な本だ。一気に読み終わった」など、作品を高く評価している。中国の若者はこの小説に対して、「人生の価値は必ずしも富や名声だけではなく、人と人の絆も非常に大切だと感じた」とのコメントを多く寄せている。急速に経済が発展し社会が変化する中国において、彼らはこの小説を通じて自分の価値観を見つめ直そうとしているのかもしれない。

チャイナ3大勢の中国人が日本へ旅行に訪れ、爆買いする様子は、日本でたびたび報道されている。旅行や買い物だけではなく、日本の小説やアニメに親しむ姿もまた彼らの一面である。彼らが日本のどのような作品を好み、どのように感じているのか。このような彼らの内面に目を向けることも、等身大の中国人を理解するうえでの一助になると思われる。
(上海駐在員事務所 佐藤 誠)

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第29回 拡大する「越境EC」市場

2015/12/01 :チャイナレポート

今年も11月11日がやってくる。中国ではこの日は「双11(双子の11)」と称され、「1」が4つ並んでいることから「独身の日」の意味を持つ。数年前から、この日は中国の消費者にとって別の大きな意味を持つようになった。きっかけは中国の電子商取引(EC)最大手のアリババが、2009年に始めたネット販売のセールである。アリババは09年以降、毎年「双11」セールを大々的に行い、開始から5年後の14年11月11日、アリババサイトでの同日のネット販売額は571億元に達した。日本円に換算すると、わずか1日で1兆円を超える販売規模であり、ネット通販分野における単日世界記録となっている。「双11」は、現在ではクリスマス商戦や国慶節商戦と並ぶ一大商戦の日となり、今年も更なる記録の更新が予想されている。

1.拡大する中国EC市場

1チャイナ「双11」セールがここまで大きな商戦となった背景として、中国においてEC市場の規模が年々拡大を続けてきたことを切り離して考えることはできない。中国電子ビジネス研究センターの報告によれば、中国のB to C(企業・個人間の商取引)における市場規模は、2014年に2.8兆元(約56兆円)となり、10年からの5年間で市場規模は5倍を超える成長を遂げた。日本のEC市場規模は14年に12.8兆円で、直近5年間の拡大幅が1.6倍であることを考えると、中国の伸び率の大きさがうかがえる。また、中国のEC市場は2015年には4兆元(約80兆円)の規模へ拡大することが予想されている。

この巨大EC市場には、数多くのサイトが立ち並ぶ状況となっている。最も大規模なサイトはアリババが運営する「天猫(Tモール)」で、市場の6割近くを占めている。続いて家電サイトからスタートした京東が2割、残りの2割の市場を世界大手のアマゾンを含めて数多くのサイトがシェア争いを繰り広げている。

2.2014年は中国における「越境EC元年」

拡大する中国EC市場のなかで、現在最も注目を集めているのが「越境EC」である。「越境EC」とは国境を越えたネット通販のことを指し、日本企業など中国国外の企業がサイトを通じて中国の消費者に販売することをいう。中国政府による政策支援もあり、14年に中国における越境ECが本格的にスタートした。アリババの「天猫国際(Tモールグローバル)」、京東の「京東全球購」など、EC事業者が越境ECサイトを立ち上げる動きが活発化している。今年に入ってからは、日本製品の販売を強化しようとする動きも目立つ。アリババは今年5月にヤフージャパンと提携して日本商品のEC支援を開始し、一方で、京東は6月に日本製品の専門サイト「日本館」を開設した。

昨年から今年にかけて、日本の商社や流通業による越境EC市場への参入も相次いでいる。天猫国際には、爽快ドラッグ(住友商事)、マツモトキヨシ、キリン堂など多くのドラッグストア系の流通業が出店している。また、伊藤忠商事は中国中信集団やタイ財閥大手チャロン・ポカパングループと組み、上海自由貿易試験区を拠点として越境EC事業を始動することを発表している。

3.中国消費者からみた「越境EC」の魅力

中国消費者が「越境ECサイト」で購入する最大のメリットは、海外の商品を安く入手できることである。海外からの輸入品には、通常多くの輸入コスト(物流費、通関費、中間流通費、税金、棚代等)が加わるため、中国での販売価格は輸入元に比べて非常に高くなる。例えば、上海の百貨店で日本からの輸入品を購入する場合、日本での販売価格の2~3倍となるケースが一般的である。ところが、同じ日本からの輸入品を「越境ECサイト」で購入すれば、より安く入手できることが多い。「安さ」だけでいえば、中国の国内ECサイト(アリババの運営するC to Cサイト「タオバオ」など)でも、個人が海外で大量購入(爆買)した商品を安く販売しているケースがある。ただし個人販売では、偽物や不良品が混入しているリスクが存在する。一方で越境ECサイトは、日本の大手事業者によって運営されているため、品質面でも安心できる利点が大きい。

越境ECにおいて輸入品の販売価格が安い理由は、一般貿易(通常の貿易)と比べて輸入コストが安価なためである。越境ECでは、一般貿易で課される税金(関税、増値税、消費税)が課されず、個人輸入と同様の簡易的な「行郵税(小包税)」が課されるのみである。行郵税の税率は10~50%であり(例:食品・飲料10%、衣類20%、化粧品50%)、一般貿易よりも税金が安いケースが生じる。また越境ECでは、卸売業・小売業等に対する中間マージンが発生せず、物流面でも日本企業から中国消費者に直送することも可能であるため、総合的にコストが抑えられる。

4.日本の売れ筋商品

アリババの「天猫国際」で日本製品の販売サイトをみると、商品カテゴリとして、化粧品、ヘルスケア、ベビー商品、健康食品、衣料品、家電製品などが主に販売されている。2015年10月時点(単月)の売れ筋は、最も販売件数が多いのが、カルビーのフルグラ、続いてスキンケア商品の馬油、化粧品、生理用品などとなっている。こうした人気商品は、楽天など日本のサイトで販売されているものも多い。そのため、ネット上で日本での販売価格が把握でき、「天猫国際」と「楽天」をみれば、内外価格差は一目瞭然となる。人気商品の販売価格を比較すると、越境ECサイトでの価格は、おおむね日本の1.5~2.5倍の範囲となっている。

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5.日本企業にとっての参入メリット

日本企業が中国の国内ECに出店する場合は、中国での法人設立や商標登録、現地での認可取得など様々な手続きを要する。一方で「越境EC」の場合は、中国で法人設立をする必要はなく、日本の商標で販売可能であり、比較的参入がしやすい。このために多くの日本企業が越境ECに相次いで参入している状況にある。

ただし上記でみたように、中国消費者が越境ECサイトで購入している人気商品は、日本で爆買している商品と重なるものも多く、中国人に対する商品の認知度・ブランドイメージの向上が不可欠である。また、中国消費者は各サイトで商品の価格を比較して費用対効果を重視しているため、合理的な価格設定も重要となる。最大手の天猫国際のサイトでは、日本製品というだけで売れる状況にはなく、やはり知名度の低い商品は見向きもされないのが現状だ。越境ECで成功を収めるためには、実店舗での販売と同様に地道で効果的なプロモーション活動を行っていく必要があるといえる。

(上海駐在員事務所 佐藤 誠)
※本稿は、2015年10月30日現在で執筆されたものです。

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