マーケットレポート

2020年度上期 世界経済は“コロナ不況” 不可避なのか

2020/04/01 :マーケットレポート

 第一生命経済研究所 取締役・首席エコノミスト     嶌峰 義清(しまみね・よしきよ)氏

※ 本稿は、2020年3月4日現在で執筆されたものです。

1.2019年度下期の市場振り返り

2019年度下期のマーケットは、昨年末までの前半と、今年に入ってからの後半とでは全く異なる展開となった。

昨年末にかけての“下期前半”のマーケットは、製造業部門を中心とした世界的な景気の減速にさらされながらも、米中貿易交渉の進展や英国のEUからの円満離脱に対する期待が支えとなり、堅調な展開が続いた。実際に12月には米中貿易交渉の第1弾合意や、英国総選挙における与党の勝利を受けて、景気の先行きに対しても楽観的な見方が市場を支配、年明けにかけて株高・円安傾向を強めていった。

これに対し年明け後の“下期後半”のマーケットを支配したのは新型コロナウイルスで、当初は中国の問題とされていたが、感染者が世界に蔓延していくにつれて、世界経済にダメージが及ぶとの警戒感が高まっている。世界的に株価は急落する場面が目立ち、G7財務相・中央銀行総裁会議では緊急会合が開かれて共同声明を発表、米国の中央銀行であるFRBはリーマン・ショック直後以来となる緊急利下げを実施するなど、緊張が高まっている。

2月末までに、大半の国債利回りは2019年度上期末となる9月末の水準を下回り、各国の代表的な株価指数は昨年末にかけて大幅に上昇したものの、その後は同水準か、下回る水準にまで下落した。

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2019年度下期のマーケット 緊迫する国際情勢と金融政策をにらむ

2019/10/01 :マーケットレポート

第一生命経済研究所    取締役・首席エコノミスト    嶌峰 義清(しまみね・よしきよ) 氏

※ 本稿は、2019年9月2日現在で執筆されたものです

1.2019年度上期の市場振り返り

2019年度上期のマーケットは、2018年度下期と同様に世界的な景気減速懸念と不安定な国際情勢に揺さぶられた。

景気は、生産活動の減速傾向が強まる一方で、個人消費が堅調に推移して景気全体の失速を抑える国が目立った。生産活動減速の背景には、米中の貿易戦争の影響のほか、循環的にも在庫調整圧力が高まりやすい局面に入ってきたことがあげられる。一方で、多くの国で個人消費が堅調に推移した背景には、世界的な金利低下の効果が大きいと考えられる(ただし日本は別の要因が大きいと考えられる:後述)。

そもそもが、リーマン・ショック後多くの国で執られてきた超低金利政策の長期化を背景に、世界経済は記録的な長期景気拡大の恩恵下にあった。そのなかで、雇用の改善が進み、失業率も数十年ぶりとなるような改善をみせており、これも堅調な個人消費に繋がっていると判断される。

世界情勢は混迷の度を深めていった。まず、米中貿易戦争においては米国が強く求めてきた要求を中国側が拒否したことで、5月以降事態は急激に悪化した。両国ともお互いの国からの輸入品に対する関税を引き上げ、その範囲も拡大していった。国際衝突は日韓の間でも起こった。市場への影響は限定的ではあったが、両国の景気には多少なりともマイナスの影響が懸念されている。このほか、イギリスではメイ首相が辞任し、新首相にEUからの強行離脱も辞さないとするボリス・ジョンソン氏が就任したことで、EUからの合意なき離脱のリスクが高まったとの見方が多い。いずれの問題も、足元の景気への悪影響は二の次とする政治判断の下に遂行されており、市場の声は届きにくい。

国際情勢の悪化は景気に対する市場の懸念を高めているが、これをくみ取る主体はもっぱら中央銀行が担うという構図は、この上期にいっそう強まったといえる。すなわち、政治面で新たな問題が出るたびに市場の動きは不安定化し(主に株安、金利低下、円高の流れ)、中央銀行が金融緩和に前向きな姿勢をみせると市場の動きは安定化(主に、株高、金利安定、円安定)することを繰り返してきたのが、この上期の市場の動きの特徴といえよう。

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2019年度上期のマーケット 景気減速を背景に総じて冴えない展開か

2019/04/01 :マーケットレポート

第一生命経済研究所    取締役・首席エコノミスト    嶌峰 義清(しまみね・よしきよ) 氏

※ 本稿は、2019年3月1日現在で執筆されたものです。

1.2018年度下期の市場振り返り

2018年度下期のマーケットは、世界的な景気減速懸念と不安定な国際情勢に揺さぶられるなか、米国の金融政策が大きなインパクトをもたらした。

世界経済は、米国との貿易戦争の最中にある中国経済の落ち込みが徐々に鮮明化したほか、欧州や日本では景気の拡大基調は続いているものの、数多くの指標が景気拡大の勢いが衰え始めていることを示唆してきた。こうしたなか、米国経済は個人消費主導で好調さを保ってきた。米国の失業率はおよそ50年ぶりの水準にまで低下するなど労働需給は逼迫し、賃金上昇率も緩やかながらも加速傾向を辿り、消費者物価上昇率は原油価格の上昇も手伝って一時前年同月比+2.9%まで高まった。米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)は、9月に続き12月にも利上げを行い、政策金利であるFF金利は2.25~2.50%まで引き上げられた。

グローバルマーケットは、12月18・19日に開催された金融政策の決定会合にあたるFOMC(連邦公開市場委員会)に注目していた。利上げは予想されていたものの、3カ月に一度公開されるFRBメンバーによる先行きの金利見通しで、2019年中の利上げ回数がゼロ、ないしは1回程度に下方修正されるのではないかとの期待が高まっていた。米中貿易交渉や英国のEU離脱を巡る問題が不透明要因として重くのしかかるなかで、着実に世界経済の勢いが衰えてきていること、その流れはやがて米国経済にも悪影響を及ぼす可能性を危惧していたためだ。

しかし、公開されたFRBメンバーの見通しは、各メンバーの平均値でみると2019年中に2回の利上げ、最多意見は3回の利上げと、市場の見方とは大きく乖離する結果であった。水準的にみても、2回以上の利上げを行うと政策金利は中立金利(景気に何の影響も及ぼさない金利水準。FRBはFF金利水準でみて2.75%程度としている)水準以上となり、金利が景気にブレーキをかけるリスクが高まってくる。これを受けて市場では、米国経済の先行きに対する悲観的な見方も台頭、クリスマス休暇や正月という年末年始の取引が薄いなかで、市場の動きは不安定さを増した。12月24日には米国株が急落して“史上最悪のクリスマスイブ”と称されたほか、1月3日にはドル/円相場が1分間で4円の円高、ドル安と、記録的な変動もおきた。いずれも景気や金融政策が直接の引き金ではないものの、市場のセンチメントが悪化しているからこその動きといえる。

こうしたなか、FRBは金融政策のスタンスを大幅に変更することを示唆、これを受けて市場の動揺も一気に鎮静化した。1月4日にはパウエルFRB議長が「利上げは既定路線ではない」などと発言、市場に配慮するような姿勢をみせた。実際、1月29・30日に開催されたFOMCの声明文では、利上げの継続を示唆する表現が消え、代わりに利上げの打ち止めを示唆する文言が新たに挿入された。加えて、1月のFOMCではFRBが2021年末までの継続を計画していたバランスシートの縮小(リーマン・ショック後に行ってきた量的緩和政策によって保有していた国債の満期償還金の再投資打ち切り)についても、早期の打ち切りを示唆した。FRBのバランスシート縮小は、市場のリスク許容度を低下させるとの見方が強く、株安要因の一つとされていた。それを早期にやめるのであれば、株安圧力もある程度減じることに繋がる。

結局のところ、市場の動揺に配慮するような格好でFRBが利上げ継続方針を“撤回”したことで、マーケットは落ち着きを取り戻した。しかし、米中貿易交渉の行方や英国のEU離脱問題など、政治的な不透明要因は残存している。なによりも、世界的な景気減速の行方はまだ見極められていない。2019年度上期のマーケットは、景気実態の悪化度合いとイベントリスクに備える格好で、無用なリスクを排除した“守備型”の冴えない展開が見込まれる。

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2018年度下期のマーケット下期後半は景気の転換を意識した展開へ

2018/10/01 :マーケットレポート

第一生命経済研究所   首席エコノミスト   嶌峰 義清(しまみね・よしきよ) 氏

※ 本稿は、2018年8月31日現在で執筆されたものです。

1.2018年度上期の市場振り返り

2018年度上期のマーケットは、世界経済の拡大基調が続く一方で、米国による保護主義的な動きが強まったことで、方向感に欠ける展開が続いた。

米国のトランプ大統領は、昨年度から続いた北朝鮮問題については、過去初めてとなる米朝首脳会談を実現するなど事態の沈静化に向けて行動し、同問題に関する市場の不安感は後退した。一方で、中国に向けて一方的な関税の引き上げ措置を講じるなど、米国が貿易赤字を抱える多くの国や地域に対して保護主義的な行動を積極的に取っていった。自由貿易の阻害は、世界経済の発展にはマイナス材料になると考え、主に株式市場には下落要因として働く局面が幾度となくみられた。

もっとも、世界的な景気の拡大基調は崩れることがなく、これが株価には押し上げ材料として働いた。米国では、トランプ減税の効果もあって4〜6月期の実質GDP成長率は前期比年率+4.1%と約4年ぶりの高成長となるなど、個人消費を中心に好調に推移した。世界の株価は、2017年度下期末に対して上昇した国もあれば下落した国もあったが、総じてみればファンダメンタルズの強い国では上昇が目立った。

一方で、強い景気を背景に米国の中央銀行FRBが6月に公開したFRBメンバーによる金利の将来予想において、2018年年間の利上げ回数を4回とみるメンバーが初めて主流となった(それまでは昨年と同じ3回が主流)。また、ユーロ圏の中央銀行であるECBは、足元で行なっている量的緩和政策を年内で打ち切ることを決定した。強い景気拡大に加え、原油価格が年初来から70ドル前後で高止まりしていることもあり、各国のインフレ率は総じて落ち着いているとはいえ、緩やかに上昇率が高まる傾向にある。こうしたファンダメンタルズの変化から、リーマン・ショック以降続く緩和的な金融スタンスから、景気実態に合わせた形へ修正する動きが先進国を中心により顕著となった。その副作用として、一部の新興国市場が不安定化しはじめている。リスクの低い先進国の金利水準が上昇したことで、リスクが高い新興国市場から先進国への資金流出圧力が高まりつつある。とくに、トルコでは米国との政治面での対立が深まったこともあって、夏場にはトルコリラが急落するなどの影響がでた。

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2018年度上期のマーケット 適温経済の夢破れ、後半には大転換も

2018/04/02 :マーケットレポート

第一生命経済研究所   首席エコノミスト   嶌峰 義清(しまみね・よしきよ) 氏

※ 本稿は、2018年3月1日現在で執筆されたものです。

1.2017年度下期の市場振り返り

2017年度下期のマーケットを振り返ると、世界的な景気拡大傾向が一層強まっていくなかで、前半は株式市場では記録的な上昇となったものの、後半にはインフレ懸念の台頭で記録的な下落となるなど、大きく様相が変わる事態となった。

下期前半(2017年10月~12月)のマーケットは、北朝鮮問題などのリスク材料がやや後退するなかで、世界的な景気の拡大基調の強まりを囃す展開となった。株価の上昇出遅れ感が強かった日本では、日経平均株価が16営業日連続で上昇、それまでの過去最長記録(14日)を更新した(図表1)。11月には、バブル時につけた過去最高値(38,957.44円)から、リーマン・ショック時につけたバブル崩壊後の最安値(6,994.90円) までの下落幅の半値水準(22,976.17円)を超えた。株式市場関係者の間では「半値戻しは全値戻しに繋がる」という見方があり、先行きに対する楽観論が一層強まり、2018年末には日経平均株価は3万円に達するとの見方も出てきた。

世界的な株高は、年が改まった1月も続いたが、2月に入ると雰囲気は一変した。1月分の米国の雇用統計で、時間あたり賃金の上昇率が市場予想を大幅に上回り、リーマン・ショック後では最大の伸びとなったことが明らかとなった。賃金の上昇ペースが加速していけば、やがて物価の押し上げに繋がる可能性が高い。これにより、FRBの利上げが加速して景気に悪影響が及ぶのではないかという懸念が台頭したことがきっかけだ。その後、NYダウは一日で1,000ドル以上の値下がりを2回記録したが、これは一日での最大下落幅記録を更新するものとなった。

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2017年度下期のマーケット欧米金融政策の転換で市場に変化も

2017/10/02 :マーケットレポート

第一生命経済研究所   首席エコノミスト   嶌峰 義清(しまみね・よしきよ) 氏

※ 本稿は、2017年8月30日現在で執筆されたものです。

1. 上期の市場振り返りと下期の注目点

2017年度上半期のマーケットを振り返ると、実体経済は決して悪くはないものの、政治面などの不透明要因によって市場の動きは方向感に欠ける不安定な状態が続いた。

注目材料の一つであったフランスの大統領選挙では、EUからの脱退などを目指す極右大統領の誕生には至らず、市場の不安材料は一つ消化した。しかし、米国のトランプ大統領に絡むさまざまな問題や、北朝鮮のミサイル開発問題などは解決に至らず、新たな報道が出るたびに市場ではリスク回避の動きが強まった。

すなわち、リスク性資産(株など)を売却して安全性資産(国債など)が買われやすくなる。結果として、株価は下落する一方、国債価格は上昇する。債券は、価格が上昇すれば利回りが低下するため、世界的に金利が低下する。このような環境では金利水準の低い日本に対し、相対的に金利水準が高い国の金利の方が大きく低下しやすいため、内外金利差が縮小し為替市場では円高になりやすい。円高は日本株のマイナス要因となる側面が大きいため、日本の株価は他国の株価よりも下落しやすくなる。日経平均株価は、景気回復基調の強まりを受けて一時2万円を超える水準まで上昇する局面もみられたが、2万円台で定着することなく、世界的なリスク回避の動きが出ると2万円を割り込む水準へ下落するなど、不安定な展開が続いた。上半期のドル/円相場が、1ドル=108〜114円台で不安定に推移したことも影響したと考えられる。

下半期のマーケットも、引き続き良好な景気と不安定な国際政治動向に挟まれる環境が続こう。景気自体は株高・金利高・円安を促すと考えられるが、リスク回避の株安・金利低下・円高要因となる米政治の動向や北朝鮮動向などの“深刻度合い”によって、市場の水準が決まってこよう。もっとも、下半期のマーケットで最も重要なことは、リーマンショック後続いてきた環境が大きく変わろうとしているということだ。それを誘うのは欧米の金融政策の転換であり、これにより市場の動きが一時的に不安定化する可能性がある。

 

2. 2017年度下期の経済環境は引き続き良好

まずは世界の景気動向をみると、引き続き世界経済は先進国を牽引役として拡大基調が続いている。昨年末頃の製造業の在庫調整完了後、生産活動は需要拡大による「意図せざる在庫減少」による生産回復局面から、持続的な需要の拡大を期待した「在庫積み増し」のための生産加速局面に入りつつある。

需要を取り巻く環境も概ね良好だ。趨勢的な消費の動きを左右する重要な要素の一つに金利水準が上げられるが、各国とも金利は歴史的低水準にとどまっており、需要を減衰させる力はないと判断される。

主要国についてみていくと、米国では生産活動に先行する製造業の新規受注が高水準で推移していることから、当面景気の勢いに陰りがみられるような局面は想定し難い。消費者の景況感を示す消費者信頼感指数は、過去50年で3番目に高い水準でなお上昇傾向にある(図表1)。労働需給は引き続き逼迫しており、足元で賃金の上昇加速に歯止めがかかっているものの、賃金水準の上昇傾向は続いている。

ユーロ圏では、内外需の両輪が揃う形で景気の回復傾向が強まっている。一時前年水準を割り込んでデフレも懸念されていた物価上昇率も、足元では前年対比1%程度の伸びとなっており、デフレ懸念は大きく後退している。

中国では、一部で住宅価格の高騰が続いている一方で、先行して上昇していた大都市圏では調整に転じ、資産価格下落による悪影響などが懸念されている分野もある。しかし、景気自体は先進諸国の景気回復を受けた輸出の持ち直しが明確になっており、これに合わせる格好で生産活動も持ち直している(図表2)。

このように海外経済が揃って拡大傾向を強めていくなかで、日本においても輸出が牽引する形で生産活動の水準が切り上がっている。一方で、内需についても増税以降回復が遅れていた個人消費がようやく明るさをみせ始めている。実質消費支出の水準は、増税前の2013年を上回り始めてきた(図表3)。ただし、所得の伸びは小幅にとどまっていることから、消費が再び落ち込むリスクは当面低いものの、高い伸びを維持したまま一本調子に盛り上がっていくことまでは期待できそうもない。したがって、インフレ率は日銀が目標とする2%を超えるような高い伸びとなることは期待できず、金融政策は現状の緩和策が維持されよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2017年度上期のマーケット欧米政治に振り回されやすい展開が続く

2017/04/03 :マーケットレポート

 

第一生命経済研究所首席エコノミスト 嶌峰義清(しまみね・よしきよ)氏

※ 本稿は、2017年3月1日現在で執筆されたものです。

1.下期市場の振り返り

2016年度下半期のマーケットは、イギリスの国民投票に揺れた上期に続いて海外の政治動向に翻弄される展開となった。注目された米国の大統領選挙では、共和党候補にトランプ氏が名乗りを上げたことで混沌とし、市場は身動きが取れなくなった。結局、大統領選挙ではトランプ氏が当選、第45代米国大統領の座に着いた。予想外の結果に、イギリス国民投票時のような大きなショックが市場を襲うとみられたが、混乱は半日で収束。その後は16年末にかけて株高・金利上昇・ドル高(円安)が急伸する“トランプ相場”となった。

その背景には、以下の点が挙げられる。第一に、同時に行われた議会選挙の結果、上下院とも共和党が制したことで、トランプ大統領の国内向け経済政策が実現しやすくなったことが挙げられる。トランプ氏は大型減税、金融規制緩和、公共投資の拡大といった景気を強く押し上げる政策を公約としていた。折しも、米国経済は再加速に転じはじめており、米景気に対する楽観論が強まった。第二に、イギリス国民投票時の経験が生きたことが挙げられる。当時、市場は予想外の結果とそれによるイギリス経済への悪影響への懸念から、一時、混乱状態に陥った。しかし、今後の交渉次第ではイギリス経済への影響は限定的になる余地があること、世界経済への直接的な悪影響は限定的なこと、離脱までに2年はかかる一方、足元の世界経済は底堅いこと、などから、およそ2週間後には欧米株価は国民投票前の水準を回復するに至った。このように「経済環境が悪くなければ、いずれマーケットは戻る」との経験が、トランプショックによって一時的に急落した株式市場へ早期にマネーが戻る結果に繋がったものと考えられる。

しかし、年が改まると楽観的なトランプ相場は影を潜めた。それはトランプ氏の政策の柱ともいえる保護主義や、世論を二分するような独善的といわれる言動が目立ってきたからである。市場では、選挙期間中にトランプ氏が主張してきた極端な保護主義や人種差別的ともいわれる政策は、リップサービスである部分が大きいのではと感じていたフシがある。しかし、トランプ氏の言動はそうした市場の期待とは真逆の方向へと向かっていった。メキシコに工場を進出させる計画を持った企業を個別に攻撃。公約としていたTPPからの離脱やメキシコとの国境に壁を建設することを早々に大統領令として決定したほか、選挙期間以上に大手メディアとの対立も深まった。こうした“変わらないトランプ”が市場の失望に繋がり、あるいは先行きの不透明感をあおる結果となっている。

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2016年度下期マーケット海外頼みに戻った日本市場

2016/10/03 :マーケットレポート

第一生命経済研究所首席エコノミスト 嶌峰 義清(しまみね・よしきよ) 氏

※ 本稿は、2016年9月6日現在で執筆されたものです。

1.上期市場の振り返り

2016年度上半期のマーケットは、米国経済が明るさを強める一方で、中国経済の停滞やイギリスのEU離脱騒動に代表される不透明な国際情勢など、景気にとって好材料と悪材料とが混在するなかで方向感に欠ける展開となった。

上半期のマーケットにとってもっとも大きなトピックスは、6月下旬に行われたEU離脱の是非を問うイギリスの国民投票だった。離脱支持票が反対票を上回るという予想外の結果に、グローバルマーケットはリーマン・ショック時を彷彿とさせるような混乱状態に陥る局面もみられた。しかし、当時のように金融市場が機能停止に陥るようなことはなく、市場の混乱も1週間ほどでおおむね沈静化した。EU域内経済への直接的な影響は限定的なうえ、イギリスがEUから離脱するまでには最低でも2年程度の時間を要すること、交渉次第ではイギリス経済への影響を少なくすることができること、などが市場の混乱を限定的なものにとどめたと考えられる。

一方で、米国経済が明るさを増したことで、世界的に景気に対する不安感は幾分後退した。日本やユーロ圏などの量的緩和政策をはじめとした世界的な金融緩和状態が続いたことによる低金利もあり、イギリスのEU離脱問題などで一時的な混乱はあったものの、世界的には株式市場は堅調に推移した。

日本では、米国金利の低下がドル安圧力を高め、円高が進んだ。さらに、消費税率引き上げ以降続いている景気の低迷もあって、株価は低調な推移となった。

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