観光イノベーションで地域を元気に

他者のため」から「自分ごと」へ

2018/11/01 :観光イノベーションで地域を元気に

株式会社 井門観光研究所 取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─旅行需要の構造変化に備えよう─

1.不況に備えよ

2019年の大型連休は新天皇の5月即位に合わせて10連休にすることが検討されている。10月には消費税の10%への引き上げが予定されているので、2019年はいかに上期中に売り上げを確保するかが、日本中の商売の共通課題になることだろう。2014年に消費税が8%となったときも消費の落ち込みが1年以上続いたが、景気循環の法則に基づくと、このときは景気の中期循環(ジュグラーサイクル)が上向きだった。しかし、2019年の増税時は、短期循環、中期循環とも下降時にあたり経済学では既に不況が予言されている。合わせて、中国や韓国の周辺国をはじめ、世界中で生産年齢人口の下降が始まり、米国が起こしつつある貿易戦争は各国の経済に打撃を与えかねない状況にある。もし、そうした国々の経済が停滞するようなことがあれば、長い不況となり、日本への外国人旅行客の成長も止まり、日本の観光産業にも少なからぬ影響があるだろう。

今、私たちは来るべき次の経済の停滞に備え、対処的ではなく、構造的な改革に目を向けなくてはいけなくなっている。そもそも、江戸後期から始まった「人口増加がもたらす経済成長」は既に終わっているにもかかわらず、同じビジネスモデルを続けていること自体が不自然なのだ。地方に目を向ければ、「需要は減っているのだが、同業者も減っている」ので、何とか残った者が需要を維持できているにすぎない。そこに人口増加に伴い自国経済を急成長させていた周辺各国からの訪日消費のボーナスがあったため、なんとか改革を先送りにできていた。

さらに、20年続く生産年齢人口の減少は、女性や高齢者の非正規雇用の増加を促し、平均賃金の低下や余暇時間の減少を招いた。その結果、旅行実施率は年々下がり続けている。この現象は構造的なものだ。正規雇用に関しては、生産性の低い業種が避けられるようになり、地方観光業の人材確保は年々至難となってきている。

売り上げは伸びず、人材も確保できない。こうした状況になったとき、いったいどうすればよいのか。未来がみえなくなると地方の観光業界からは後継者が消え、事業承継も難しくなっていく。私たちは何から改革していけばよいのか。しかし、その先がみえてくれば、これまで「観光」と呼んでいたビジネスに代わる、大きなブルーオーシャンが広がっている。

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観光と地域の共生を考える

2018/10/01 :観光イノベーションで地域を元気に

株式会社 井門観光研究所 取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─着地型観光の成功のために─

1.ベトナムのリゾートに学ぶ

ベトナムの首都ハノイからバスで6時間。冬には雪をいただく標高3,143mの同国最高峰ファンシーパンを望む山岳都市「サパ」を新潟県の旅館経営者の皆様と視察で訪ねた。最終目的地はサパからさらに車で2時間走った絶壁の上に建つ天空のホテル「トパス・エコロッジ」だ。周囲は一面の棚田。少数山岳民族が米作を営みながら暮らす山の中に、デンマークの企業が同国のODAを活用して地域と共生するホテルとして2005年に開業した。

企業収益を上げながら地域と共生する持続可能な新たなリゾートはこれからの日本の地域にとっても参考になるのではないかというのが視察の目的である。利用客のほとんどがヨーロッパからのお客様で、観光地では1泊の利用が多い日本人はいない。1泊では訪ねる価値があっても片道8時間もかけてまで宿泊する意味を持てないのは無理もない。裏を返せば、滞在する欧米人に関しては、そこが意味のある目的地となれば、どんなに時間をかけても滞在しにやってくるということである。

トパス・エコロッジの特徴は、第一に、デザインの最先進国デンマークらしいランドスケープデザインである。尾根の突端でさえぎるもののない空間にベトナム風のシュロで葺かれた屋根をいただくコテージが30数棟。周囲の棚田と山々を望めるように建っている。棚田の間を行くとインフィニティプールとスパ。ラウンジ棟ではビジネスツールを取り出し、ワークに励む人もいれば、プールサイドでワインを傾ける人もいる。一種ここだけの特別な空間を醸し出している。第二には、周辺に住む少数民族「赤ザオ族」と共生している点である。毎日地元ガイドが「赤ザオ族」の集落を案内するトレッキングツアーを催しているほか、ロッジ前には赤い伝統的な帽子をかぶる女性たちが伝統的刺繍の入った工芸品を販売するマーケットが出るのだが、そこでの買い物用代金の一部は宿泊代金に含まれている。

ロッジはいわゆるDMC(デスティネーション・マネジメント・カンパニー)となり、地域全体の緩やかな経済成長に寄与している。大規模開発や施設への囲い込み等、従来型観光でありがちな「開発者の総取り」を目指さず、地元住民が自発的に(工芸品やランチ需要等の)生産に関わり、新たな就労機会を生むことを目指している。

宿泊代金は日本の温泉旅館と同程度だが、ベトナム国内では高い部類に入る。しかし、ロッジの存在意義が明確であるがゆえに意識の高い顧客層が滞在をしている。インバウンドが増えゆく日本でも、今後こうした地域共生型リゾートが増えていってもおかしくはないだろう。

 

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成功するインターンシップとは

2018/09/03 :観光イノベーションで地域を元気に

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─地方で働く潜在需要を作る─

1.日本型インターンシップ

大学で私のゼミに所属する36名の学生は、毎年8月から9月に地方の旅館での3週間のインターンシップ(就労体験)に行く。海外では、インターンシップというと、学生が自ら志望する企業でお互いにマッチするかどうかを見極める目的をもって、大学と企業が連携して最低3カ月以上の期間で実施している。しかし、日本の場合、新卒一括採用という採用スタイルであることもあり、そうしたカリキュラムを採る大学は少なく、長期のインターンシップはまだあまり普及していない。

日本の就職活動はといえば、大学3年も終わりに近づくと、学生はサークルとアルバイトで培った力ばかりを書いたエントリーシートを抱え、大学の面接対策講座で教わった一夜漬けのフレーズを暗記して臨んでいる。志望企業は自分の知っている会社か親の勧める企業ばかり。そして、入社して1年以内に35%が、3年以内に50%の若者が「仕事が自分に合わなかった」と辞めていく(内閣府・子供・若者白書)。こうした就活をしている限り、いつまで経っても大学と社会の間の溝は埋まらない。そして、何より一番の被害者は、十分に育たないまま社会に出ていく学生本人ではないだろうか。

井門ゼミでは、2年生の7月にゼミ所属が決まると、かつて後鳥羽上皇が流された隠岐諸島などの旅館に向かう。ちょうど夏はかき入れ時なので、旅館としても有難い。報酬はなし。その代わり、住居とまかない食が提供される。彼ら、彼女たちは、地方や旅館への就職を目指しているのかといえば、そうではない。そういうと旅館の方から叱られそうだが、旅館に就職したいという学生は多くはない。学生がインターンシップに行く第一の目的は「社会人基礎力の養成」だ。鍛える場として地方旅館(特に島の旅館)はとても適しているのだ。 続きを表示…

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旅館革命を導く業法改正

2018/08/01 :観光イノベーションで地域を元気に

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─分散型ホテルで地域は滞在型に─

1.アルベルゴ・ディフーゾ

2018年6月15日、住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行され、民泊が正式に合法化されたニュースばかりが注目を浴びているが、同日に施行された改正旅館業法にこそ、地域にとって今後重要になってくる要素が秘められている。今回の旅館業法改正は、とりわけ、通過型観光地と揶揄されたり、観光資源は何もないと思われていたりするような地域にとって、滞在型観光地へと転換できるほど影響のある改正になった。

今回の改正で重要な点は2つある。1つ目は「最低室数の撤廃」である。これまでは旅館は5室、ホテルは10室と客室数の規定があったがそれがなくなり、1室の建物でも旅館・ホテルとして許可を受けられるようになった。2つ目は「フロント(帳場)」がなくてもよくなったことだ。また、3月には建築基準法も改正となり、こちらでは、建物の用途変更に関して建築確認申請を省略できる基準が100㎡以下から200㎡以下へと多少緩和された。

これらの要素で何が可能となるのかといえば、複数の古民家や空き家を活用した「分散型ホテル(まちぐるみ旅館)」が1軒の旅館・ホテルとして認められるようになる。

分散型ホテルとして世界的に知られているのが、イタリアで1980年代に始まり、欧州全体へと広がりを見せている「アルベルゴ・ディフーゾ」(イタリア語で分散型ホテルの意)だ。1976年に北イタリアで発生して大きな被害をもたらした地震復興の一環として、空き家となった複数の伝統的家屋を客室とし、周辺のレストランや商店など集落全体をホテルと見立てたのがその始まりである。もともとは、宿泊施設もなかったような村ばかりだが、地元の人には当たり前でも観光客にとっては美しい景観のなかで暮らすように滞在できることから一躍観光客に脚光を浴びるようになり、今ではイタリア国内だけでも100を超えるエリアで誕生している。

日本でも、2000年代後半に同様の動きが生まれてくるようになる。

例えば、兵庫県篠山市では、2005年、兵庫県職員として丹波県民局で勤務していた金野幸雄さんが、町家の消滅に危機感を覚えた仲間たち(まちづくり、建築士、景観等の専門家5人)と「NPO法人たんばぐみ」内に「まちづくり部会」を設立し、公的資金に依存せず、市民の資金とボランティアで空き町家の改修や活用する方法の研究を開始した。この動きが、後々、「集落丸山」や「篠山城下町ホテルNIPPONIA」といった日本を代表する分散型ホテルの礎となっていく。

2009年に、古民家等の再生整備と滞在体験施設としての運営を行なう一般社団法人ノオトが設立され、古民家を改修して宿泊施設化するプロジェクトとして最初に手掛けたのが、市内から車で10分ほど離れた丸山集落の古民家群。12軒中7軒が空き家となった黒豆畑に囲まれた限界集落で、このうち3軒の古民家について10年間の無償貸与を受け、地元工務店を使い改修を行なった。改修費用の半額は国や県の補助金を活用したが、所有者をはじめ市民からの出資や銀行からの借入れも受けた。PRや営業はノオトが行なったが、施設管理はNPOを作った集落に一任をすることで、集落自らが経営する分散型ホテル「集落丸山」が誕生した。

海の向こうで民泊予約サイトのAirbnbが誕生したのが2008年。リーマンショック前夜でもあったこの頃、京都では京町家を改修して1棟貸しする動きがスタートした。高松では仏生山商店街に1棟貸しの客室を造り、町の温泉銭湯や食堂も宿の機能に見立てた「まちぐるみ旅館」というコンセプトが生まれた。宿が変わっていく時代の胎動は、今から10年前のこの頃に始まった。

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共生経済・社会へと進む日本

2018/07/02 :観光イノベーションで地域を元気に

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─外国人労働者がやってくる─

1.ベトナム・ダナンへ

5月中旬、あるホテルグループ経営者の方とベトナムに飛んだ。その方は筆者が以前からベトナムの外国語大学と学生交流しているのを知っていて、同行したいと申し出てこられたので快諾した。その大学は国立大学で、日本語学科で各学年100人の学生が学んでいる。ネイティブの日本語の先生が少ないので、学生を連れて交流訪問すると喜ばれるのだ。そこで、5年前から大学間協定を結び学生間交流を行なっていた。おそらく、その経営者の方は、私とある同じ「思い」を持っていたと思う。

ベトナム中部のダナン国際空港は、2017年秋にAPECが開催されたのに伴い国際線ターミナルが新設され、空港がベトナム戦争激戦地の南軍の前線基地だったことなど想像ができないほど、リゾート感にあふれている。成田からの直行便で6時間。ベトナム第三の都市は、インドシナ半島を貫くASEAN東西経済回廊の東の玄関口として港湾機能等が急速に整備され、経済都市として発展しつつある一方、ヤシの木が並ぶ長く美しいビーチを備えたリゾート地でもある。ビーチリゾートの先には、日本人が中世に朱印船貿易で交易をしていた世界遺産の町ホイアンがある。これほど観光資源に恵まれた人口150万人都市は珍しく、市内のバーでは世界中からきた観光客が半そで短パン姿でビールを傾けている。

ダナン市内には、日本語学校のいくつかと、日本語学科を持つ大学が2校あり、合わせて約1万人が日本語を学んでいる。ベトナムでは、英語と並び、日本語が義務教育の第一外国語になっていることはあまり知られていない。それほどの親日国なのだ。外国語大学でも日本語学科の入学難易度は英語学科とともに最も高く、優秀な学生が集まってくる。日本語学科の学生は主に地元に進出した日本の製造業に就職をする。製造業としては男子学生が欲しいのかもしれないが、日本語学科の学生の9割が女子というのが特徴だ。彼女たちは「いずれ日本の企業に就職して日本で働きたい」という夢を持っている。

彼女たちは卒業時には日本語検定2級という資格を持ち、日本で働けるほどの語学力を兼ね備えている。しかし、日本の入国管理が厳しく、日本で働くためにはプロ通訳等の高度専門職でしか就業ができない。そこで、私は在学中に日本の大学へ交換留学の道を、ホテル経営者は企業実習として3か月間のインターンシップの機会を作るべく訪問したのが今回の目的だった。

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観光の「日常」化に向けて

2018/06/01 :観光イノベーションで地域を元気に

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─オンライン繁盛店の共通点─

1.パンと日用品の店「わざわざ」

長野県東御市御牧原。畑のなかに人家がポツリポツリあるだけの山の上にパンと日用品の店「わざわざ」がある。売っているパンは食パンとカンパーニュだけなのに遠方からわざわざ訪ねて買いにくる方も少なくない知る人ぞ知る店だ。2009年に平田はる香さんが一人で始めた店も、2018年4月現在13人が働く会社となり、年間売上は230万円が1億8千万円にまで伸びた地方創生の旗手のような企業である。

「わざわざ」の経営には、現代風の新しいやり方が詰まっている。詳しくは、オンラインショップにリンクされている平田さんが経営について書き記したnoteをご覧いただきたいが、いくつか私もうんうんと同感したポイントを紹介しよう。

1つめは、消費者が本当に欲しいものに限って品揃えをし、造り込んだ世界観を自ら発信している点である。当初、東京で始めたパンの移動販売では20種類以上のパンを売っていた。しかし、チョコレートパンをデザート代わりに買っていく常連客がだんだんと太っていくことに気づき、自家製酵母や国産小麦粉などヘルシーで健康志向の2種類の食事パンだけに絞り込むことにした。その間、多くの顧客を失ったが、「パン=食事」だと認識する方がいることを信じてパンのクオリティを上げていった。

そして、自らの世界観を伝えるため、世界的なインスタグラマーに刺激されながら一眼レフカメラで撮影した日常をSNSで発信し続けていった。自分が「本当に伝えたいこと」が消費市場とうまくマッチングし、「あったらいいな」と思う消費者とうまくつながっていったのだと思う。その思いが伝わるためにも、自分が納得できるクオリティの写真はつくづく大切だと感じた。

2つめは、「わざわざ」の働きかたである。「わざわざの働きかた」をまとめて自主発行した本4,000冊はあっという間に完売。そのうち、本を読んだ方々50人が、ボランティアで「一日しごと体験」にやってきて、多様な個性のなかから何人かが社員としてスカウトされた。まさに、インターンシップ制度である。その際の採用基準はスキルではなく「楽しく働ける気の合う仲間」かどうか。その点はスキル採用に偏っている世のほとんどの企業の本音も同じだろう。

いつでも好きな時間に働けるアルバイトの自由出勤制もおもしろい発想だが、もっと先進的なのが「評価しない人事制度」だ。仕事に優劣はないという発想の下、全員給与は一律24万円。リーダーになると手当があるが、あとはボーナスで加算していくというやり方だ。もっと稼ぎたいなら副業や転職もよし。それよりも楽しく働ける人材インキュベーター(孵化器)となればよいという発想ならば、観光業も大いに参考にすべきではないかと思う。

3つめは、時代に合わせて販売プラットフォームを変えていったこと。商品を販売するプラットフォームには「オフライン」と「オンライン」がある。当初はオフラインで始めた店もオンラインに完全シフト。この時点で、消費者のいる場所で販売する必要はなくなる。また、広い商圏を対象として販売することが可能となる。そして、その商品で山の上にある店が消費者とつながることにより、わざわざ訪れる訪問者が増えるという観光効果も生む。

逆説的かもしれないが、私は、これからの時代には宿泊業のような観光業も「消費者とつながるための商品」を持つ必要があると思う。客がくるのを待つだけではなく、商品のオンライン販売で商圏を広げ、自社の個性と特徴をピンポイントで知ってもらうことである。その商品とは「消費者が本当にほしいもの」である必要があるが。

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地域観光政策の転換を

2018/05/01 :観光イノベーションで地域を元気に

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─客数よりも所得を伸ばす─

1.客数を追わないビジネス

2018年6月、住宅宿泊事業法が施行され、民泊が正式に登録宿泊施設としてスタートする。その一方で、ヤミ民泊も消えないことから、既存の宿泊業界は民泊に対する疑念の声を緩めない。民泊の流通チャネルとして、ホストとゲストをつなげる役割を果たすAirbnbはホテル業向けのOTA(オンライン旅行会社)に比べ、3%という低い手数料率でホテル予約ビジネスへの参入を開始した。ライドシェアビジネスのUberもタクシー業界からの批判を受けつつも、じわり世界じゅうで市場を広げつつある。

こうした現象は「シェアエコノミーの台頭」とひと言で片付けられているが、それだけではなく、「できるだけ多くの『客数』を必要とするこれまでのビジネス」と「必ずしも『客数』は最優先ではないこれからのビジネス」の両方が登場し、混沌とし始めたと考えることもできる。

ホテル・旅館、OTA、タクシー等は「客数を必要とするビジネス」で、民泊、Airbnb、Uberは「客数は最優先ではないビジネス」だ。

時代が、「総人口も生産人口も増えた時代」から、「総人口も生産人口も減少する時代」へと大転換をしつつあることが要因だ。

国連の統計だと、経済成長した先進国の人口は頭を打つが、インド・アフリカといった国々の人口が爆発的に増えるので、21世紀の人口は増える(観光客も増え続ける)というシナリオになっているが、今のシナリオなら、2040年頃には日本の観光地はインドやアフリカ人で溢れていることになる。ただ、その前に小さな島国の日本はパンクしているはずだ。今後も観光客が増え続けることができるのは、人口が増える国々の地続きの「隣接国」だ。欧州でも観光客の過半数は、隣国からの日帰り客だ。

日本における観光政策としては、物理的限界のある島国で客数を増やすことを考えるよりも、観光により国民所得を上げるという方向を目指すべきだと思う。ちなみに、シェアビジネスは皆「副業」だ。効率的に所得を上げようという人々が関わっている。

しかし、まだ観光客数が増え続けることを前提とした右肩上がりの20世紀型の観光計画を目にすることが多い。総人口が減少する時代に観光客数を増やそうとする場合、他の地域の減少分を奪ってくるしかない。国民所得が増加しない経済構造の時代には、所得向上につながる「新しい旅のスタイルを創造する」以外に地域が豊かになる方法はないと思うのだが、そうした計画は少ない。

この20年間で国内旅行消費は30%も減少したが、旅館業の客室数も30%減った。そのため、残った旅館の方々は「(自分の旅館は)それほど減っていない」とおっしゃるが、それは、消えた旅館の需要を奪ってきたに過ぎないのだ。

今後、イノベーションなき右肩上がりの地域観光計画は、減りゆく観光客の奪い合いに発展し、日本の観光総需要の減退につながり、地方創生の理念とは真逆に進むおそれが高い。奪ったほうは右肩上がりになったと錯覚し続けるが、奪われた地域からは需要が消滅する。

現時点では訪日外国人が増加しているので、何とか助かっている。しかし、日本には地続きの隣接国はなく、受け入れるにも物理的な限界がある。今後、「観光客は減っていく」ことを前提に計画を作るべきだと思う。

しかし、悲観することはない。「客数」を追わなくてもよいビジネスを創造すればよいのだ。

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地域力向上に向けて

2018/04/02 :観光イノベーションで地域を元気に

株式会社 井門観光研究所 代表取締役  井門 隆夫(いかど たかお)氏

─鳥羽商工会議所の取り組み─

1.商工会議所による観光地活性化

三重県鳥羽市。志摩半島北東部に位置する観光の町は、風光明媚なリアス式海岸に囲まれ、そこかしこに牡蠣筏が浮かぶ。伊勢海老やアワビの漁獲高も多く、海鮮料理を目当てに、水族館、真珠島見学や伊勢神宮参拝を兼ねて宿泊する団体客も多い。というか、多かった。ところが、時代は変わり、一世を風靡した団体客は消え、負債を抱えて休廃業する旅館も目立つようになってきた。ピーク時には700万人いた観光入込客数は400万人に、100万人いた真珠島の入場者も20万人まで減少した。

代わりに増えたのが個人客。個人客が日々訪れ、今や市内で水族館に次ぐ入込数を誇るのが「神明神社」だ。神明神社は鳥羽市の東部「相差(おうさつ)」地区の鎮守社だが、その一角に「石神さん」と呼ばれる小さな祠がある。その祠は海女が信仰し、漁に出る前に安全を祈願して石ころを入れたお守りを腰に下げたことから「女性の願いを一つだけ叶えてくれる」社として、噂が広まった。そして、今では立派になった神社に、多くの女性が参拝し、お守りを求めていくようになった。個人客は「自分自身のご利益につながる物語」を求めている。

仕掛けをしているのは、鳥羽商工会議所だ。黒子として地域の事業者を束ね、一般社団法人相差海女文化運営協議会を組成し、町内会や漁協、観光協会とも連携しながら、海女文化を保全・継承している。海女が採ってきた魚介を囲炉裏でもてなす「相差かまど」、石神さんの参道にあった古民家を再生したカフェ「五左屋」などを運営し、観光まちづくりを推進するDMO候補法人にも登録した。

中小事業者の経営について熟知する商工会議所が地域再生に深く関わり、観光地活性化を主導していることがポイントだ。これまでの観光地活性化は、観光協会や旅行会社の誘客プロモーションに依存していた面がある。しかし、それでは、旅行会社への営業力があり、価格競争力のある旅館に需要が偏り、民宿などの小規模事業者は後手に回ることが多かった。

ところが、相差では民宿のような小さな宿が元気いっぱいなのだ。その背景には、商工会議所の小規模事業者へのハンズオン支援が隠れている。

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