糸を績む、布を織る

2021/11/01 :越佐歴史漫筆

新潟市歴史博物館(みなとぴあ)  館長     伊東 祐之 氏

糸と布

寒くなると無地の黒っぽい臙脂(えんじ) の薄手のセーターを思い出す。1960年代、私の母は家で内職をしていた。家庭用の毛糸編み機で、業者の持ってきた毛糸を指定されたサイズ、デザインの身ごろに編んで納める内職であった。定期的に業者が製品を集めに来て、かわりに労賃と毛糸を置いていった。私も両手を体の前に立て、長巻の糸を糸玉にするのを手伝った。母は内職の合間に家族のセーターも編んでくれた。私は、母が縄目模様や込み入った色模様を編むのに苦労するのを見ていて、自分のセーターは無地がいいと言った。それが臙脂のお気に入りのセーターである。ほつれたセーターは解かれて弟のセーターに編み直されたが、今はコタツがけの緯糸(ぬきいと)になっている。

新潟市歴史博物館では開館以来、糸よりや機織りを度々題材にしてきた。今、服は店で購入する物である。古くなったり、汚れたりした服は、燃えるゴミに出される。子供たちは、自分の着ている服が布を縫ってできていること、布が糸を織ってできていること、糸が植物繊維や動物の毛をよってできていることを知らない。恰好をつけたり、暖を取ったりするために着る衣服に、長年にわたる人々の技や工夫、努力が詰まっていることを知ってほしい。実は現在もあなたの見えないところで多くの人が、あなたが着ている服のために、綿摘みをしたり、服を縫ったりして働いていることを知ってほしい。そう思って、博物館で取り上げている。

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